※当ホームページでは、毎週火曜日にバックナンバーを追加掲載しています。
from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦
冷泉 彰彦(れいぜい あきひこ) 作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『
911 セプテンバーイレブンス
』『
メジャーリーグの愛され方
』『
「関係の空気」「場の空気」
』
『
アメリカは本当に「貧困大国」なのか?
』。訳書に『
チャター
』。
最新作は『「
上から目線」の時代 (講談社現代新書)
』。
またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。
“from 911/USAレポート”が、『10周年メモリアル特別編集版』として電子書籍アプリで登場!!
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Vol.3「オバマ、性急な改革者か? それとも政治的怪物か?
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第465回 「IT長者女性軍団はティーパーティーの勢いを止めるか?」
配信日:2010-06-12
アメリカの政局は、11月の中間選挙を目指して走り出しています。今週の火曜日、6月8日は、中でも「スーパー・ドゥーパー・チューズデー」と言われて、重要な予備選の集中日となりました。特にこの日について言えば、全米で女性政治家が躍進しており、翌日のニュースでは「女性パワーが政界を圧倒」というようなストーリーで紹介する局が多かったように思います。この日の選挙に勝利した主要な女性候補ですが、上院議員候補と知事候補など色々な顔ぶれがあるのですが、全体としてはどうやら新しい政治的トレンドが動き始めたようにも思うのです。
まず、ここ半年の政局で注目されてきた、共和党の「党内党」というべき草の根保守派の「ティー・パーティー」系は、今回も存在感を示しています。中でもネバダ州の共和党上院議員候補のポジションを勝ち取った、シャロン・アングル候補(元州議会議員)は「ティーパーティー直系」というべき強烈なキャラクターです。資金力では他の2候補に劣る中、ひたすらに「ティーパーティー」のボランティアを動員して予備選に勝った、その勢いもさることながら、政見は正に西部の「草の根保守」らしく「徹底した」ものなのです。
まずオバマの医療保険改革には全面的に反対、それどころか現行の高齢者医療保険や公的年金制度も全て民間に移行すべきと主張しています。また、ネバダという州が全米でも極めて失業率の高い、従って雇用の不安定な土地柄であるにも関わらず、公的な失業給付制度を否定するなど「徹底した自己責任、小さな政府」という思想です。特に失業給付の否定に関しては、「極端すぎる」として共和党の多くがこのアングル候補に対して疑問を投げかけているそうです。
もう一人、サウス・カロライナ州で共和党知事候補として、予備選で一位につけたニッキ・ハーレイ候補(州議会議員、インド系)も「ティーパーティー系」だと言われています。このハーレイ候補の場合は、候補乱立で過半数が取れず決選投票になるのですが、現時点で49%の票を獲得しており、6月22日に予定されている決戦投票も有利だと言われています。ちなみに、現時点ではサウス・カロライナの知事選では共和党の票が圧倒的で、ハーレイ候補が出馬すれば本選でもかなり有力だという見方がされています。
ところで、この選挙ですが、現職のサンフォード知事(共和)が愛人と会うために勤務中に失踪してアルゼンチンへ行っていたというスキャンダルで政治的死に体になっているので、その「出直し選挙」という意味合いも強いのです。ただ、このハーレイ候補の場合は、「ティーパーティー系」といっても政見が特に保守的なわけではなく、「現職のダーティーなイメージを清算したい」という政治的衝動に乗っかっているだけで、中身は穏健保守ということのようです。
ところで、西海岸に目を転じますと、カリフォルニア州では、従来なかったような全く新しい政治的な動きが起こっています。8日の予備選では、まずカリフォルニア州選出の共和党上院議員候補には、カーリー・フィオリーナ女史(元HP社CEO)が勝利し、現職のバーバラ・ボクサー上院議員(民主)に本選で挑むことになりましたし、シュワルツネッガー後継を目指すカリフォルニア州共和党知事候補には、メグ・ウィットマン女史(元イーベイCEO)がこれまた大差で選出されています。
この二人は共同の勝利集会で、「シリコンバレーの現実政界から政治を変える」と宣言して大変な話題になりました。何が新しいのかというと、この二人はものすごい個人資産を持つIT長者として「自前の資金で戦える」候補だということ、そして政治的には中道右派の現実主義という、今の共和党に欠けている部分を埋める立ち位置にいるということが言えます。更に言えば、この二人は、例えば往年のIT業界出身のロス・ペロー大統領候補のように、あるいはビジネス誌の発行から本当に世界を動かしたくなったスティーブ・フォーブス候補のように、「徴税権への反発・小さな政府」を動機として政界に出てきたというような「個人的な思想上の執念」とは一味違うのです。
このフィオリーナ、ウィットマンのコンビに感じられるのは、「とにかく国を、州を動かしてみたい」という強烈な権力欲と、そして「私の手腕なら政府のリストラも可能」というたいへんな自信です。カネがあり、権力欲と自信があるというと、それほど珍しくないようにも思うのですが、この二人の場合は極めてリアリストであることと、徹底したロジカルシンキングの姿勢があること、そして実業界にいた時から物凄い政治的なパワーゲームの修羅場をくぐってきているという点が、やはりこれまでの財界出身候補とは違うと言って良いでしょう。
選挙に関していえば、まずウィットマン候補の知事選はかなり有利な戦いになりそうです。シュワルツネッガー知事でもできなかった財政危機の克服が選挙戦のテーマになるのは間違いないとして、イーベイを従業員30人の会社から国際的な巨大企業に育て上げた手腕は、やはり説得力があります。組織を細分化して権限を委譲する代わりに、目標管理を厳格に行うというのが、イーベイの経営にあたってのウィットマン女史の持ち味でしたが、仮に州政府でこれが実行できれば、長年の課題であったカリフォルニア州政府の立て直しに成功するかもしれない、そんな期待を込めた票が相当取れそうだからです。
これに比べると、上院選の方は、現職のボクサー議員が磐石とも言える地盤を固めていますが、この選挙、上院と知事がダブル選挙になる効果で、ウィットマン票の多くをフィオリーナが固めれば、大逆転もあるかもしれません。では、どうしてこの二人に勢いがあるのかというと、共和党のチャレンジャーでありながら「ティーパーティー」的なものとは一線を画しているということが重要です。
例えば、アリゾナ州での「不法移民取締法」などに関して言えば、「ティーパーティー」のグループは「どんどん取り締まるべき」というポジションなのですが、カリフォルニアではそうした主張では「右寄りすぎる」のです。この点に関しては、ウィットマン候補などは「もっと上手な方法がある」として、必ずしもアリゾナ方式を支持していない一方で、オバマ大統領の政策も批判しています。そのオバマ大統領は「国内の不法移民の人権には配慮する代わり、国境警備を厳重に」と言っていたのですが、先週の国境守備隊によるメキシコの青年射殺事件以来、その「オバマ流」への世論の風当たりも強くなっており、中道右派的な現実論が受け入れられる状況は整っているというべきでしょう。
この半年あまり、「ティーパーティー」のグループは「現職のワシントン政治家」への敵視を強め、特に予備選で共和党の穏健派ベテラン議員を失脚させることに躍起になってきました。ですが、この二人の登場は「共和党というオバマへの反対党」でありながら「宗教保守でもなく」そして「穏健で現実的」という全く新しい傾向のチャレンジャーとして受け止められる可能性があります。もしかしたら、2012年の大統領選に向けて、オバマ政権を揺さぶるのはこうしたグループかもしれません。
例えば、フィオリーナ候補の場合は、前回の大統領選でマケイン候補の「ビジネス関係者向け応援団」をやっていたことから、「ティーパーティー」の情念の中心ともいえるサラ・ペイリンとの間には確執が伝えられていましたが、ペイリンも政治的計算は下手ではないようで、SNSの「フェイスブック」を使ってフィオリーナを支持しているそうです。
ちなみに、ネバダのアングル候補に関しては、本選で民主党のハリー・リード上院院内総務に挑戦することになります。このリード陣営では、アングル候補の「極端な保守ぶり」や「非常識なまでに粗野なイメージ」のために、かえって本選は有利になるのではという見方も出ているようです。その昔、民主党内では「リベラルでなくては候補になれないが、リベラルでは本選に勝てない」というような愚痴が言われたことがありました。今度は共和党内に「保守でなくては候補になれないが、保守では本選には勝てない」というジレンマが出てきているというわけです。アングル候補という余りにも極端な候補を上院の予備選で勝たせてしまったということで、共和党もそのあたりに気づき始めているという見方も可能で、そこへカリフォルニアの二人が新しい旋風を巻き起こしているというわけです。
この日の動きとしては、民主党で「左のポピュリスト新人」から「現職追い落とし攻撃」を受けていた、アーカンソーのリンカン上院議員が辛うじて決戦投票に勝って本選候補になっています。アメリカのメディアでは、このリンカン候補の辛勝についても「女性パワー」という括りで報道していますが、もしかすると「左右のポピュリズムの反骨衝動的エネルギー」だけではダメだという政治的トレンドが出てきている、その兆候という見方もできると思います。
今現在は、原油流出事故と、雇用の改善遅れなどでオバマ大統領は苦境にありますが、こんな状態が続くようですと、それこそIT長者の女性パワーが国政をひっくり返すような動きになってくるかもしれません。それはともかく、その前に、とにもかくにも「ティーパーティー」一色だった共和党内に新しい風が吹き始めたのは事実のようです。
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