アメリカでは、10月の失業率が10.2%と二桁の大台に乗せるなど、依然として厳しい雇用情勢が続いています。今週も木曜日恒例の「前週の失業保険申請数」が発表になりましたが、前週と変わらずの50万5千人と好転はしませんでした。そんな状況ですから、雇用に関する人々の意識はシリアスです。各大学は、就職相談室の体制を拡大したり、全国各地に広がる同窓会組織を強化して、卒業生の就職斡旋に力を入れています。大学によっては保護者会も動かしたりしています。
ちなみに同窓会とか保護者会が機能するというのは、アメリカでは人事部による一括採用というのがないので、新卒も中途も含めた採用権限は、各部署にあるという事情があります。例えば、G投資銀行がの金融市場に関するアナリストの補助職を採用するとすると、それがNYから投資する場合のポジションであればNYのその部署に採用権限があり、ロサンゼルスにそのポジションを置くのであれば、現地で採用するということになるのです。
では採用の入口はというと、勿論広告を出したりもするのですが、とっかかりとしては人脈というのがモノを言います。というと、コネが横行しているのかというとそうではなく、仮に情実で採用したことが明らかになると、落ちた人から訴えられて巨額の懲罰賠償を請求されることもあります。ですが、入口の「縁」の部分としては、人間関係のチェーンを頼るというのは、良く行われているし、別に悪いことではないのです。ですから、同窓会組織や保護者会組織を通じて採用権限のある人に、自分の大学の出身者を面接するよう働きかけるというのは有効なのです。また、大学での専攻と職種は一致するのが普通ですから、求人側も大学にアプローチをします。ですから、大学のケアというのは、完全に個別対応になるものの、機能するのです。
そうはいっても失業率10.2%という状況では、実際のところ大学を卒業してもすぐに就職するのは難しい、この点は日本と変わりはありません。日本の場合は、10月時点で来年3月卒業者の内定率が62.5%ということでショックが走っていますが、アメリカの場合はもっと低いでしょう。来年5月に大学を卒業する時点で、そのままタイムラグなくフルタイムの職につける人は、恐らく50%を切るのではないかと思います。
では、アメリカでは「就職氷河期」といった言い方で社会問題化がされているのかというと、少なくとも新卒に関しては特に騒ぎになっていないのです。問題はあります。冒頭お話ししたように、各大学では卒業生の就職斡旋に懸命になっているのは事実です。ですが、どうして騒ぎになっていないのでしょう。ここからの議論は、今年の春に「就職留年をしたあなたへ」というタイトルで配信したコラム
http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/report3_1583.htmlの続編として書くことにします。
どうして騒ぎにならないのかというと、大学を出て即就職しないと一生正規雇用には就けない危険がある、という問題はアメリカの場合は「皆無」だからです。前回のコラムでも書きましたが、アメリカには終身雇用制がないからです。ですから、大学を卒業した若者は、そもそも「一生の勤め先」を探すことはしません。まず考えるのは、自分のキャリアをどう積み上げて行くかということです。
例えば、TVのキャスターになりたいのであれば、地方局の現場での就職を狙います。そこで実績を積み上げて行く中から、転職を繰り返して、中央のケーブル局や三大ネットワークの仕事へ就くことを最終の目標に据えるのです。そのために、どう実績を積むのか、その競争は実は大学での専攻での成績や、大学での放送局活動など「履歴書に書ける行数」として、卒業以前に始まっているのですが、では卒業して仕事が見つからない場合はどうするかというと、パートタイムでも契約ベースでも良いのです。とにかく、現場経験を積むこと、フルタイムでなくても現場に出ながら、粘り強く各社にコンタクトをし続けて、(場合によっては紹介会社に登録しておいて)オファーを待つのです。
TVのアナウンサーやキャスターというのは、やや例外に属します。というのは、4大卒叩き上げで「一番上」まで行ける珍しい世界だからです。他の一般的な業種の場合は、管理職や上級の専門職に行くためには、大学院での修士号が必要になってきます。特に民間企業の管理職はMBAが重要になります。この場合は、大学を出て職歴を積まないと、大学院に入学できないことが多いので、大学卒業の時点ではMBAに合格するために必要な職歴作りとして、就職を探すということになります。そしてMBAの学位を取った後は、管理職「幕下付け出し」の好待遇を得て、転職を繰り返してステップアップを狙うことになります。
ここまで紹介した点は、日本とは全く違う世界です。こうした制度をいきなり導入しては、日本の民間も官庁も組織がメチャクチャになってしまうでしょう。また、各組織の意志決定を握っている人間は、余程危機意識が強くない限り、こうした「転職を繰り返してのキャリア開発」であるとか「MBA新卒の管理職即戦力」などという話は、そもそも「日本の場合はムリ」ということにしてしまうと思います。労組や個々の勤め人、あるいは大学生にしても「そんな競争社会では、もっと大変になる」とネガティブな印象を持つかもしれません。
では、もう少し細かな点を見てみることにします。
まず、大学を出てフルタイムの仕事にブランクなしで就けるのは50%ぐらいと述べましたが、残りの50%はどうしているのでしょう? 先ほど申し上げたように、新卒など20代の若者が考えることは「キャリアの蓄積」です。そのためには、フルタイムの仕事が良いと言えば良いのですが、この雇用情勢の下では難しい、そこで多くの若者はパートタイムの仕事に就きます。パートタイムの銀行員、パートタイムのカスターマーサービス、パートタイムのTVアナウンサー、パートタイムのウェブ・デザイナー・・・中には時間換算の仕事ではなく、フリーランスとして、あるいは起業家として自分で仕事をするケースもあるでしょう。
ただ、こうした「パートタイムだが職歴の積み上げになるような権限のある経験」があって、「それが評価される」仕組み、あるいは若者が気軽に起業できて、その後に会社を売却したり、清算したりしても「履歴として評価される」仕組みというのは、日本の場合は「即効性のある改革」としては難しいように思います。
では、他のケースはどうなのでしょう。「勉強熱心な大学を出て、就きたい職業も決めているし即戦力になるだけの知識は大学で学んだ」学生が、たまたま「縁がなくて」とりあえずフルタイムの仕事には就けなかった、そんな場合は「インターン」になるのです。「インターン」というのは研修生ということで、正規の採用ではありません。では、パートタイムや、アルバイト以下の補助職かというと、そうではないのです。学歴に見合った難度の仕事に触れさせながら、お互いに評価し合うのが目的です。上司としては、それなりに難度の高い内容を与えてみて「コイツは将来正式に採用する価値があるかどうか?」を見極めるわけですし、本人は「この会社は自分に合っているだろうか?」を考えながら、実際にスキルを身につけるのです。
勿論、本当の雇用関係にないのに会社の奥へ入れて、全面的ではないにしてもノウハウや機密を見せるですから、お互いに信頼関係がないとダメです。コンプライアンスということですと、キチンとした守秘義務契約は結ぶ必要があります。また、責任を負わせない範囲で高度な業務知識を使う業務にもタッチさせることから、雇用契約の採用と同じような学歴、特に細かな専攻内容と、職歴をチェックした上で、面接をして選抜がされます。アメリカでは、ほとんどの職種に関してこの「インターン」が行われています。
例えば、米国議会の委員会などで、ひな壇に並んだ議院のお歴々の後ろで耳打ちしている秘書(委員会の場合、一人の議員に二人ぐらいついていることがあります)の中で、異様に若い人がいた場合はインターンであると思います。彼等、彼女らの場合は、議会審議のナマの現場で経験を積むことで、やがて議員秘書として採用されたり、大学院で公共政治学を学んだり弁護士になったりするのです。人気職種である銀行や投資銀行などでも同じで、例えば為替のディーラーなんていう特殊な適性を要求される仕事の場合は、ほとんどがインターンで入って、才能がありそうならばそこでオファーが、ということになります。
この「インターン」制度は日本でも少しずつ取り入れられています。ただ、現実的には大学2年生の終わりからの「就活」の一環として、企業の「囲い込み」的な位置づけになっているようです。現在の採用基準から見て「優秀な学生」つまり、学歴とホンモノの基礎能力、それと「自分の言葉と礼儀」というコミュニケーション能力などを持っている学生を「インターン」として企業に通わせて、能力を見ながら本人を動機付けするというものです。
仮に「就職氷河期」が再現し、いや更に悪化した形で続くような場合、しかも企業が終身雇用制を崩すのに時間がかかる場合、このまま放置しておけば、「第二のロスジェネ」ないし「ロスジェネの固定化」といった事態に至ることが考えられます。これは大変なことです。それは、正規雇用に就けない世代が大量に発生するということだけではありません。高等教育を受けた人材が活用されずに放置され、スキルの伸びる時期にスキルを磨くことができずに年齢を重ねるというのは、人材が唯一の資源だと言われる日本社会の一層のパフォーマンス低下を招くことになるからです。
これを避けるために、即効性のある方策として(1)既卒者の採用拒否を禁止する、
(2)既卒者の有給インターン制度を設ける、の二点を提言したいと思います。
(1)に関しては、今年の4月に書いたように理不尽ながら日本の民間企業では堂々と横行しています。「新卒は大学在籍中だから身元が安心」「年功序列のヒエラルキーを崩したくない」「他社の色が付いた人材は鍛えにくい」・・・色々と企業には言い分はあるでしょう。ですが、「就職留年」をさせて「自己分析」や「業界研究」をした方が有利で、しっかり既卒で働いて社会経験をするのはダメというのはどう考えても理不尽です。派遣の薄給に耐える中から社会を見た人間は「労使関係の本質を知りすぎているから使えない」というのがホンネなら、財界は総じて「ブラック企業」と言われてもおかしくないと思うのです。
とにかく、既卒者の排除を禁止し、違反企業はドンドン社名を公表するぐらいで良いのではと思います。業績不振のために、泣く泣く内定をキャンセルした企業より悪質だと思うからです。その上で、(2)の既卒インターン制度を各企業に導入させるのです。既卒者ですから無給というわけには行かないでしょうが、そもそも企業としては余裕がないから新卒を採れなかったのであり、コストの問題が出てくるのは分かります。ですから、公的資金を入れるのであれば、ここへ入れるのが良いのではないでしょうか?政府の緊急雇用対策本部も「就職ジョブサポーター」とか「就活支援キャンペーン」などということに使うカネがあったら、既卒インターン経費の補助をすべきだと思います。そうすれば、新卒者支援とスキル開発を一緒にできるからです。
その場合のスキルとは、各業種の業務基礎知識と、利害相反状況でのコミュニケーション、スケジュール管理の3点を強調すべきでしょう。この三つをしっかり押さえれば、その中で頭角を現してきた人材は企業は安心して採用ができると思います。怪しげな「エントリーシートの書き方」であるとか「面接での自己アピール」などという子供だましの「就活」ではなく、現場のOJTで揉まれての業務知識の呑み込みと、調整コミュニケーション能力、スケジュールのマネジメント、この三つを学びつつ、この三つの観点から採用するようになれば、採用戦線はずいぶん風通しが良くなると思います。
上手くいくようなら、早期の「就活」などというのは一切廃止して、大学四年生の夏休みから卒業後数ヶ月にかけてのインターンで選考がされるようにして行ったらどうでしょう。アメリカのような専門職種を絞ってのインターンではなく、日本式の企業風土の現状との整合性は確保した上で、まずは入口から新卒一括採用を崩していくこと、これは日本企業にとって必要な改革なのだと思います。
本稿を書き進めていた19日の木曜日には、議会で上下両院の合同公聴会があり、ガイトナー財務長官が出席したところ、与野党のセンセイ方から「集中砲火」を浴びるという光景がありました。民主党のチャック・シューマー議員あたりも厳しかったのですが、共和党側からは「お前が辞任せよ」という攻撃もあり、大荒れの委員会でした。ガイトナー長官は、自分が金融危機脱却のために打ってきた手については最善手だったと胸を張る一方で、危機を招いたブッシュ政権と共和党に対して躊躇することなく反撃をしたのですが、そもそも各議員がどうしてカッカしていたのかというと、全員口を揃えて「失業率10.2%」のことを攻め立てるのです。
この委員会自体は怒号の飛び交う決してほめられた光景ではありませんでした。また財務の責任者であるガイトナー長官に対して、失業率上昇の全責任を押しつけるような議員達の姿勢は間違っています。ですが、アメリカの政治において雇用統計が経済社会の基本として、つまり政治の成功不成功を計る指標として重視されている、そのこと自体は正当であると思うのです。日本の場合は、終身雇用や一億層中流などという感覚の時代が長く続いたために、失業率や内定率でショックを受ける、まして政治責任の問題になるというのは今ひとつピンと来ないようです。ですが今こそ、アメリカのようになる前に、雇用統計の重みを理解した上で、様々な手を打って行くべきだと思うのです。