海外レポート/エッセイ
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せんだ葉(せんだよう)   金融翻訳/通訳
外資系銀行東京支店為替資金部勤務を経て1998年渡英。MBA(経営修士)取得後シティ
の金融機関に就職。ジュネーヴ勤務を経て、現在はドイツにて金融翻訳/通訳に従事。 
http://www.yohsenda.com/
Ex 特別寄稿「せんだ雑記帖〜ドイツの日常から見た欧州危機」
配信日:2012-01-26
近所のスーパーで小銭きっかり支払って出ようとすると、ちょっと、ちょっと!と呼び止められた。振り返って、レジ係の婦人が大笑いしながら見せる小銭を、何かと思いながら受け取って、私も大笑い。小さな茶色い1セント(約0.5円)のつもりが、1ペニヒ。そう、どこでどう混ざったのか、ドイツ・マルクだったのだ。「まだユーロだよ、マルクがまた必要になるかもしれないが」、と後ろの紳士に冗談を言われ...。そう言えば、ヨーロッパ一の発行部数を誇るビルト紙の世論調査によると、ドイツ国民の二人に一人がドイツ・マルクの復活を支持している結果が出たとか。

それでも、実際、ドイツ人がどれだけ瀬戸際感を感じているかというと、ちょっと不明。ユーロ危機!と言ったヘッドラインやらニュースやらを、連日耳(目)にするのだが、金融市場の真ん中で、株や債券、通貨や金利に直接関わっている人以外には、正直のところまだ実感がないのではないかと察するからだ。ましてや、遥か遠くの日本からしてみれば、「欧州危機」と言われても、もっとつかみ所がなくなるのではないかと思う。

まず、人口で比較すると、ユーロ圏を引っ張っているドイツの人口は約8,200万人、フランスは6,300万人。日本の1億280万人と比較するとそれぞれ、8割と、6割相当だ。現在の正式なユーロ加盟国は17カ国で、人口3億2,600万人とのこと。

さて、「スモールトーク」と言えば、会話のきっかけとして天気や週末の話、もう少し親しい相手ならば趣味の話などをすることであるが、ドイツでは、スモールトークとして政治の話は御法度というのがルール。議論好きのフランス人がカフェで、タバコやアルコール片手に政治話に花を咲かせ、というのとは違って、こちらは真剣勝負で対応しないといけないから、とはドイツ語会話の先生の弁。

それでも、なんとかその辺の話を聞きたしと、私がメンバーに加えてもらっているオーケストラの休憩時間などに、下手なドイツ語でそちら方面のネタを振ってみるが、やっぱり反応が鈍い。そう簡単には話せないという雰囲気で、まあ、私の稚拙なドイツ語相手では、伝わるものも伝わらんと見限っているのかもしれないけれど。

もちろん、ドイツ国民の税負担増となる他国救済措置への抗議行動などはあるし、テレビの討論番組では経済界、政界からゲストを呼んで毎晩のようにバンバンと議論が展開されている。ドイツの置かれている状況を説明する番組も頻繁にある。

たとえば、Rettungsschirm。文字通り訳すと『救済の傘』で欧州安定化メカニズムのこと。ユーロ加盟国やEU予算などから総額7,500億ユーロが拠出され、債務危機に陥ったユーロ加盟国に融資することになっている。これが昨年夏に、ドイツの負担額が予定より大幅増の3,170億ユーロとなり、単純にドイツの人口で割ると、一人当たり3,870ユーロ(約38万7000円)負担。これは生まれたての赤ちゃんも含めてだから、大層な金額だ。救済の傘が、しかも予定より大きな傘が登場し、そのうちのドイツの負担分が肥大化といった図解をアニメーションで見せられるなどしているから、一般人への情報インプットは十分あるし、昨今の最重要トピックの一つであることは間違いない。

昨年8月発行の、ドイツの週刊情報誌Stern*2)に興味深い図説があったので、ちょっとここでご紹介したい。アメリカ、欧州諸国、および日本のGDPと公的債務額を比較したもので(ドルベース、2010年)、視覚的にかなり鮮明に各国の状況が把握できる。細かい数字は省いて、大まかに掴んでみるとこうだ。

まず、目を引くのが、日本の公的債務。GDPの2.2倍相当と巨額だ(*1)。GDPの黒丸をすっぽり包む、借金の赤丸。もちろん、このGDP:借金率は主要国の中でダントツの悪さ。ちなみに、アメリカの赤丸=公的債務は日本のそれより1.1倍大きいが、黒丸のGDPが若干上回っているので、国の借金はGDPの範囲内となっている。

一方、ドイツのGDPは日本のGDPを100とすると、ざっと61。公的債務の1.25倍の水準なので、黒丸内に赤丸が収まるという格好。荒い言い方だが、採算は黒字となる。フランスは、GDPも借金もドイツの8割程度水準と捉えていただければ良いかと思う。この二国合わせて日本のGDPと並ぶレベルになるが、借金については日本の4割程度にしかならない。

渦中のギリシャはというと、赤丸が黒丸より大きく日本と同様の悪バランスだが、国の借金はGDPの1.4倍で日本の2.2倍よりはましに見える。しかも、絶対額は日本の4%にも満たないので、大騒ぎしている割にはこれだけ?と言えなくもない。

もちろんこれらの数字だけで単純に「アブナい」「アブナくない」を判断できないし、たとえば国債の海外投資家への依存率などによっても、資本のフローや金利水準が影響してくるだろう(詳細は専門家にお任せします)。それでも、見た目は、公的債務の絶対額、GDP/借金比率とも非常に悪いのが日本となる。ヨーロッパの心配の前に、日本の心配だろうとでもなるところ。

ただユーロ圏については、国それぞれの体力格差など、もともと土台の弱いイメージがあるところに、共通目標達成に向けて各国が足並みを揃えることへの難しさなどの不安要素も加わっている。よって、ギリシャのような小国にもかかわらず、その財政破綻がユーロの存在自体を揺るがす心配種になっているのだと思う。

余談になるが、前出のビルト紙、ギリシャ危機に関する記事がギリシャ国内でかなりの反発を買っていたのだが、ビルト紙の記者がギリシャのテレビ番組に出演、なんと彼の説明が好評で、大方のギリシャ国民を説得させたのだとか。同紙による報道なので多分に大げさではあるが、まあ、そもそもギリシャ政府による説明不足だったのではないかと勘ぐってしまう。

そのギリシャ、若年層の失業率は40%を超える*3)。失業率の高いスペインからも含めて、昨今はドイツへの労働移住が顕著。昨年暮れのドイツ連邦統計庁の発表によると、2011年度上期(1月〜6月)のドイツへの移住者は43万5,000人で、前年同期比18.5%増となった模様。うち、87.5%は外国籍者で、同21%増。中でも、ギリシャからの移住者は8,890人で同84%増、スペインからは4,100人で同49%増とのこと。EU諸国間の行き来は自由なので、カジュアルな短期労働等を含めると、実際ははるかに多いのではないかと思う。ドイツの失業率は6-7%で、まだ楽観できるレベルではなく、こういった外国人労働者の増加で、ドイツ人労働者の4割近くが外国労働者流入増による賃金低下を懸念しているとの調査結果もある。

恒例の新年演説の中で、メルケルは2012年も引き続き欧州は厳しい年になると警告する一方、平和的な欧州大陸統一は歴史的な贈り物であると、ドイツらしいコメント。旧西ドイツ出身者にとっては、1990年のドイツ再統一で「東」のために負担を強いられた格好で、さらにユーロ通貨導入でドイツ・マルク建て資産が目減りしたという印象を持っている人が多い。他国の債務のために増税を余儀なくされるのもご免だが、ユーロ加盟国がデフォルトを起こすというリスクも避けなければならず。今年はさらにドイツ国民はユーロ統合の真の意味を思い知らされて、じわじわと実感していくというところなのか...。机の隅で、あの行き場のない1ペニヒが鎮座している。

*1) GDP(名目):約5兆4588億ドル、公的債務12兆180億ドル
    World Economic Outlook Database, April 2011より
*2) Stern Nr. 33 (Issued: 11.8.2011)
*3) 2011年10月失業率:18.2%(うち15-25歳:45.5%,25-34歳:25.3%)

備考:
欧州危機のこれまでの経緯および今後の展望については、欧州政策センター副所長/政治学者ヨーゼフ・ヤニング氏の見解が興味深いのでご参考まで。
http://www.magazin-deutschland.de/jp/politik/europaeische-union/artikelansicht/article/mehr-europa-mehr-stabilitaet.html (日本語)

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外資系銀行東京支店為替資金部勤務を経て1998年渡英。MBA(経営修士)取得後シティの金融機関に就職。ジュネーヴ勤務を経て、現在はドイツにて金融翻訳/通訳に従事。 
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