海外レポート/エッセイ
    ※当ホームページでは、毎週火曜日にバックナンバーを追加掲載しています。
高田ケラー有子(Yuko Takada Keller)   造形作家(デンマーク北シェーランド在住)
京都市立芸術大学大学院修了。日本在住時よりヨーロッパ、アメリカなどで作品を発表。1997年よりデンマーク在住。近年はデンマークを中心にヨーロッパ、日本で作家活動。キューレータとしても、日本のアーティストをデンマークに紹介している。
コミッションワークとして、岡山県早島町町民総合会館「ゆるびの舎」、兵庫県 看護協会に作品を手がけている。
著書に『平らな国デンマーク〜「幸福度」世界一の社会から〜』(NHK出版生活人新書)
Webサイト:http://www.yukotakada.com/
第95回 「外国人配偶者のポイントシステム」
配信日:2010-11-28
 今週からぐっと冷え込んでいるデンマークですが、これからデンマーク人と結婚してデンマークに暮らすことになる外国人に対して、その条件を新しくポイント化する提案が、与党である自由党と保守党、そして閣外協力をしているデンマーク国民党から出され、国民の間でも議論が分かれています。

 こうした外国人の移住に関する厳しい規則は、自由党政権になってから、閣外協力をしているデンマーク国民党の意見が大きく反映される形で、これまでも、いろいろと通って来ているのですが、私がデンマークに来た13年前に比べると、すでに永住権を得るための条件はポイント制度になっていて、数段厳しくなっています。それが、さらに厳しくなって行く、というか、まず結婚してデンマークに暮らす段階でもポイント制度を導入しようというわけで、それが、より高学歴、語学力のある人材を重視する、というものになっています。この提案に対し、社会民主党や社会主義人民党は代案を提案して対抗し、急進党などは、ポイント制度そのものに反対の姿勢を示していますが、議会で多数決となれば、与党が強く押しているポイント制度が導入されそうな勢いです。

 ただし、世論調査の結果では、国民の反応は、制度そのものの是非はともかく、制度の内容が平等の概念から離れて行くようなこの提案に、疑問を抱く意見も出ているようです。

 11月18日に大手新聞のPolitikenが行った世論調査では、1126名にアンケートを取り、内44%が結婚してデンマークに移住するための条件としてのポイント制度を設けることには賛成。45%が反対でした。ただし、ポイント制度の内容に対しては、62%の人が、実務経験より学歴重視の制度に反対。ポイント制度の内容にも賛成なのは27%だけで、多くのデンマーク人がポイントのあり方が不公平である、と思っているようです。

 賛成の人や、与党の考え方の根底には、国が外国人に対して援助するお金を軽減したい、という思いがあります。たとえ結婚したために移住して来た場合でも、働けない人には国が何らかの援助をすることになり、またそれをあてに移住して来ている人も、全くいない訳ではないところに、外国人を毛嫌いする国民感情が生まれる背景にもなっているので、どこでどのような線引きをするのか、というのは、非常に難しい問題です。

 今回の与党案は、その線引きを、大学での学歴と語学力に重きを置いた、ということになるわけです。

 具体的に提案されているその制度の内容は、年齢24歳以上は60ポイント、24歳以下は120ポント以上取らないと、デンマーク人と結婚してもデンマークに住む居住ビザをもらう事ができません。

ポイントの仕組みを列記すると:
1)最終学歴
・デンマークまたは海外の*トップ20の大学でPh.dあるいは修士号取得=120ポイント
・海外のその他の大学でPh.dあるいは修士号取得=80ポイント
・デンマークまたは海外のトップ20の大学で学士号取得=70ポイント
・海外のその他の大学で学士号を取得=50ポイント
・デンマークで職業教育または専門教育を終了=50ポイント
・海外で職業教育または専門教育を終了=40ポイント

2)職歴
・デンマークでの専門実務経験2年=80ポイント
・海外での専門実務経験が過去3年のうち2年半=60ポイント
・海外でのその他の実務経験が過去3年のうち2年半=40ポイント

3)語学力
・デンマーク語かスウェーデン語かノルウェー語のレベルが*C1=50ポイント
・英語かドイツ語かフランス語かスペイン語のレベルが*C1=40ポイント

4)その他
・デンマーク語が*レベル2に達している=20ポイント
・英語かドイツ語かフランス語かスペイン語のレベルが*B1-B2=20ポイント
・申請者が、少数民族居住地区(Ghetto)に住んでいない=20ポイント
・国際的な人道支援活動に積極的である=10ポイント
・自立性がある(職業とは関係なく)=10ポイント

 以上がポイントの仕組みで、このうち1)〜3)のグループについては合計ポイントを加算。4)からは、最大で20ポイント加算される可能性がある、と言う仕組みです。

 このポイントの仕組みを見て、多くの外国人のみならず、デンマーク人も差別的な匂いを多少感じていることは、確かにあるようです。

 Politikenがネット紙上で、6人の外国人の似顔絵を入れて、"Who should be allowed to stay in Denmark?" というクイズ形式のポイント試算ができる問いかけをしています。6人それぞれの年齢や学歴、職歴、個人の活動などが紹介され、それをポイント計算してみて、回答を見る、というもので、読者による計算間違い(考え方の違い)の指摘や、意見などコメントも紹介されています。
http://politiken.dk/debat/ECE1112340/hvem-skal-have-lov-til-at-bo-i-danmark/

 語学力は、もちろんその国に暮らし、仕事をするためには、必ず必要なことですが、高学歴で英語圏に住んでいて英語が堪能なだけで(母国語あれば当たり前のこと)、必要なポイントを問題なくクリアーできる人もいれば、母国語が英語圏でないために、自動的に不利になる場合もあります。

 上記のポイントの仕組みを見てもわかるように、母国語以外の言語力を問うものではなく、どの言語が話せるか、と言う事が重要視され、最初から欧米諸国以外の出身者には語学面では、厳しい条件になります。

 また、このポイント制度の他にも、申請者は銀行に100,000クローネ(約170万円)の預金を持っている事(現行は50000クローネ)、という条件もあり、ますます不公平感というか差別感をいだいてしまいます。

 この国に暮らせば、国の恩恵をたくさん受けて暮らす事は間違いないことですが、そのための税金も外国人であっても、働けば納める訳で、外国人全てが納税対象外ではないはずです。ただ、最初からデンマーク語ができる訳もなく、でも言葉ができなくても、語学学校に通いながら多くのアジアや中近東出身の女性が清掃員をしたり、老人ホームなどで働いています。別の言い方をすれば、公的機関の清掃員で、デンマーク人を見かける事は滅多にありません。朝早くから、また夜遅く、施設のオープン前や閉館後に、外国人の女性たちが一生懸命掃除している姿は、日常的に見かけます。

 そうした人材も大切な労働力でありまた納税者です。デンマークの文化風習を重んじず、出身国の言語で教育する学校を作って(もちろんデンマーク語の授業もしていますが)、2世3世にあたる子どもたちを、デンマークの学校に通わせない移住者も確かにいるし、そうした動きが大きくなれば、危機感がつのることもよくわかります。

 しかしながら、少なくとも、デンマーク人が大切にして来た平等の概念が根底から崩れて行くような制度にはならないでほしい、と願っている人も多いと感じています。

 ただ、この制度にも、実は落とし穴があります。

 もし、必要ポイントに達しない場合は、近郊のスウェーデンの都市でデンマーク人のパートナーと3ヶ月暮らす、という方法です。EU内のどこの国でも、そこで居住ビザを発給をしてもらえればいいのですが、お隣のスウェーデンが、比較的規則が緩く、ビザを発給してもらいやすいのです。

 スウェーデンの場合、3ヶ月以上の滞在でEUでの居住ビザを発給してもらう事ができるようで、その後デンマークに移住しても、そのビザが有効になり、デンマークで住む事も可能になります。例えばマルメ(Malmo)ーコペンハーゲン間は、通勤エリアとしても認識度が高いので、そうでなくても、マルメに暮らしているコペン勤務のデンマーク人や、外国人は多くいらっしゃいます。国際結婚を支援している私設団体などでも、こうした方法を斡旋して、デンマーク人と結婚してデンマークに暮らしたい外国人の支援をしているようです。

 こうした逃げ道というか、落とし穴を使う人も今後は増えて来る可能性もあり、そうなると、また別の手段を政府は考えるのかもしれませんが、いずれにしても、これは合法なので、政府もどうしようもないようです。

 語学学校の制度も、私が来た13年前とは少しづつ変わって来ています。現在は、居住3年以内の外国人は無料でデンマーク語の教育が受けられますが、それ以上は有料です。また、居住4年で永住権の申請ができますが、この時点でデンマーク語テスト*レベル2の試験に合格していなければなりません。3年以内にこのテストに受からない場合はあとは自費で学校に通って、4年目のテストに備えなければなりません。

 それでも3年間、無料で学校に行かせてもらえるのですから、ありがたいと思わなければと思いますが、例えば私の場合、来てすぐの段階から仕事が忙しく、学校に通う時間がとれませんでした。そういうケースもあるわけですが、今はそうしたケースだと、まず永住権ももらえない、ということになります。ちなみに私はテストを受ける制度が成立する前に永住権をもらえたので、テストは受けていません。

 それでも13年も住んでいると耳も慣れて来て、日常的なやりとりはデンマーク語でできるようになっても、なかなか語彙が増えないので、今、私はデンマーク語の読み書きのコースに改めて通っています。これは大人のための教育の一貫として受講できるクラスで、やはり無料です。通常の外国人のための会話クラスには長く住み過ぎているので、無料では受講できないのですが、それでも、受けようと思えば、何らかの形で、無料提供されている器があることも確かで、語学学校に電話で可能性を聞いた時にも、親切にその可能性を教えてくれました。これは大変ありがたいことです。同じクラスには,私と似たように、来た当初は仕事が忙しく語学を習得する時間がなく、60歳を過ぎてから在住35年目にしてデンマーク語の読み書き習得しようとしているアメリカ人男性もいます。

 こうした恩恵を実際に外国人として受けている事は確かですし、語学の習得に時間がかかれば、税金もたくさん使う、という結果にもなります。私もその分、しっかり働いて納税しないといけない、ということです。

 日本語の読み書きができても有利にはなりませんが、最近、プライベートスクールでは、これからの国際ビジネスを見越して、中国語を教えている学校があるようです。ビジネスに有効な語学として、英語はもちろんですが、フランス語やドイツ語と平行して中国語を学ぶ事が、流行、というか、ひとつの波として起こって来ています。年齢的には10歳から12歳くらいで始めているようで、難しい漢字の読み書きも、子どもたちはこなしているようですし、とても興味を持って学んでいる様子が、先日ニュースで紹介されていました。

 今回のポイント制度には、トップ20の大学にはアジアの大学はひとつも入っていませんし、語学力のポイントにも、デンマークに居住するためのポイントなので、アジアの言語は当然のことながら入っていません。ただ、将来的な可能性で言えば、欧米諸国以外の言語ができることも、ビジネスを展開する上では、意味のあることかもしれません。そう考えた時、将来的に、そこに日本語や日本の大学が入ることより、中国語や中国の大学が名前を連ねる事の方が、可能性があるのかもしれない、とそのニュースを見ながらふと思いました。しかしながら、実際にはトップ20や語学力の中に、アジアの大学や言語が入って来る可能性は、限りなく低いと言えそうです。
_____
*の補足:

■海外のトップ20の大学、2010年のランキングは、
・ University of Cambridge (England)
・ Harvard University (USA)
・ Yale University (USA)
・ UCL (University College London) (England)
・ Massachusetts Institute of Technology (USA)
・ University of Oxford (England)
・ Imperial College London (England)
・ University of Chicago (USA)
・ California Institute of Technology (USA)
・ Princeton University (USA)
・ Columbia University (USA)
・ University of Pennsylvania (USA)
・ Stanford University (USA)
・ Duke University (USA)
・ University of Michigan (USA)
・ Cornell University (USA)
・ Johns Hopkins University (USA)
・ Swiss Federal Institute of Technology (Schweiz)
・ McGill University (Canada)
・ Australian National University (Australien)


■語学レベル*C1B1B2:

ヨーロッパ言語共通参照枠(CECR:Common European Framework of Reference for Languages)という、ヨーロッパ全体で外国語の学習者の習得状況を示すガイドラインがあり、ここで定められたレベルをポイント制度でも適用している。

( http://en.wikipedia.org/wiki/Common_European_Framework_of_Reference_for_Languages )

英語のまま以下概要のみ引用

The Common European Framework divides learners into three broad divisions which can be divided into six levels:

A Basic Speaker
A1 Breakthrough or beginner
A2 Waystage or elementary

B Independent Speaker
B1 Threshold or pre-intermediate
B2 Vantage or intermediate

C Proficient Speaker
C1 Effective Operational Proficiency or upper intermediate
C2 Mastery or advanced
(より詳細なレベル内容は上記リンクよりご参照ください)

■デンマーク語テスト*レベル2:

CECRの基準を元に

レベル1:筆記A2レベル、口頭B1レベル

レベル2:筆記B1レベル、口頭B1~B2レベル

レベル3:筆記口頭共にB2レベル

村上龍RYU'S CUBAN NIGHT