海外レポート/エッセイ
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高田ケラー有子(Yuko Takada Keller)   造形作家(デンマーク北シェーランド在住)
京都市立芸術大学大学院修了。日本在住時よりヨーロッパ、アメリカなどで作品を発表。1997年よりデンマーク在住。近年はデンマークを中心にヨーロッパ、日本で作家活動。キューレータとしても、日本のアーティストをデンマークに紹介している。
コミッションワークとして、岡山県早島町町民総合会館「ゆるびの舎」、兵庫県 看護協会に作品を手がけている。
著書に『平らな国デンマーク〜「幸福度」世界一の社会から〜』(NHK出版生活人新書)
Webサイト:http://www.yukotakada.com/
第63回 「医療・オリンピック・王室・環境ニュース数珠つなぎ」
配信日:2008-04-08
 3月最後の日曜日未明、夏時間になり、日本との時差は7時間。明るい日差しがまぶしい季節になってきました。それでも日中の気温はまだまだ5度前後の日もあったりで、なかなか春本番とまではいかないのですが、野外での活動がそろそろ始まり、息子も先週末の土日は、森での野外キャンプに出かけました。

 森の入り口までは車で送りましたが、そこからは大きなリュックを背負ってひとりで歩かなければなりません。寝袋とマットが入っているので、それだけでも相当かさ張り、どの子供の荷物も大きくて大変そうです。でも、みんながいっしょなので弱音を吐く訳にも行かず、どの子も「ひとりでできる!」とそれぞれの親と自分に言い聞かせながら、ヨタヨタと森の中に消えて行きました。

 夜は0度にまで冷え込んだ週末で、貝が半分開いたような形をした屋根だけある小屋で寝袋に包まれて一夜を過ごしたのはいいのですが、ほとんど眠れなかったようでした。スパイダーという日本でいうボーイスカウトにあたるグループの活動でしたが、ナイフの使い方や、森での自炊など、電子おもちゃもテレビもない夜を仲間といっしょに楽しく過ごしたようで、迎えに行った時には泥まみれで、よく遊んだことが伺えました。

 私たちの住む周辺には森がたくさんあり、無料で利用できるこうした小屋が点在しており、スパイダーの活動のみならず、クラスの活動としても、毎年5月から6月の週末を利用して、数名の親と子供たちとでキャンプに出かけます。自然の中で一夜を過ごす経験が、身近にできる環境にあるのはありがたいことで、私たちも迎えにいきがてら、森の散歩を楽しんだりしています。

 さて、今回は、話題をいくつか盛り合わせてお届けしたく思います。

 日本の医療問題の話題があったこともあり、まずは、デンマークの医療現場で今問題になっていることを少し。

 過重労働から薬物に手を染める医師の数が急増している、という問題がまずあげられます。夜間勤務や不規則な勤務状況から、自分を奮い立たせるために手を染めた、という医師が多く、当然のことながら、それが如何に体に悪いか一番よく知っているはずの医師が、深刻な薬物中毒におかされているというのです。これはホームドクターではなく総合病院などの勤務医師に多くみられ、その度合いの差はあるものの20人に一人の割合でいる、ということで、ちょっと耳を疑うショッキングなニュースでした。他にも、医師のPCワークが増えたがために、患者との対話の時間が減少しつつある傾向があり、問題点として取り上げられています。

 ただ、それがために、緊急患者のたらい回しなどには至っていないので、その秘訣はどこにあるのか、と探ってみましたが、明確な要因を見つけることはできませんでした。強いていえば、デンマークの医療体制として、まず総合医療が基本になっていることで、運ばれた病院にその専門の科が無くても、まずは受け入れて応急処置を施した後、必要に応じて専門医師を呼ぶことや、専門医師のいる病院に搬送する体制があることだと思います。また夜間に電話で対応してくれる医師が地域毎に配置されているため、小さな問題は、そこで解決され、病院に行く必要がないと判断されることも多いことがあると思います。

 現場の専門家ではないので、子供を育てている観点から見えていることのみではありますが、実際、以前にも書いたように、息子が10歳になった今も、いまだに小児科の専門医にかかったことは一度もありません。つい先日も息子が夜中に激しい頭痛を訴えたのですが、電話で夜間ドクターの指示を得て、手持ちの点鼻薬を投与してことなきを得ました。数日前にかかった風邪が原因だったようで、病状を確認するため、こういうことはないか、ああいうことはないかと、いろいろ聞いた上で的確な指示を出してくれ、単なる頭痛薬が効きにくい理由もわかり安心して眠りました。

 もちろん、それでも症状が解消されない場合は、最寄りの総合病院の緊急窓口にいくことになりますが、この夜間ドクターが出した指示やこちらが説明した病状などは、すべてコンピュータに入力されているので、病院に着いた時点での医師の対応も早い、という印象があります。これはひとつにはCPRナンバーという国民一人ひとりが持っている個別のナンバーで情報が管理されているという仕組みがあるからなのですが、確かに、入力する時間を考えると(たいていが話しながら入力されてはいますが)、相談者との対話時間が減らないとは言い切れず(あるいは待ち時間が増えないとは言えない)、便利な道具を使って迅速に対応しようとする反面、そのしわ寄せが全くない、とは言えないのかもしれません。

 メールやインターネットの普及で、どの業界でもPC作業が増えていることは否めまないと思います。学校でも、連絡事項はホームページに掲載されるので、家庭でそれぞれがそれをチェックする仕組みになって来ており、教師はアップデートを余儀なくされています。体温の伝わりにくいコミュニケーション、ということになりかねないので、親の方は週に一度は朝送って行った時に顔を合わせるようにするなどして、連絡がなくても挨拶を交わす時間を作ろうとしています。

 子供の成長にあわせて、送り迎えもしないようになってくるため、そこに問題が生じないようにと、願っているところです。

 北京オリンピックへの対応ですが、これを書いている時点では、日本が態度を明確にしていないのと同じように、デンマークも政府としての明確な意思表示はしていません。ラスムセン首相の、それぞれの選手が参加の是非を自分で決めればいい、という発言はあったのですが、それは責任放棄と取る意見もあり、また選手の中には、そこまでの責任を選手個人に課すのは重すぎる、として政府の態度を明確にしてほしい、と願っています。ただ、人権問題とオリンピックは分けて考えるべき、という意見も多く、選手や関係者のことを思っても、参加させてあげたいという気持ちも大きく、ボイコットというようなことにはならないように感じています。その中でひとりだけ、文化大臣(文化にはスポーツも含まれる)が、6日夕刻、中国が対話を持たない場合は、開会式に出席しないという意思表示を初めてしました。

 チベットの問題については、こうした明確な意見を中国に提示するべきだという意見も多く、今のところオリンピックをボイコットするか否かという論議にはならないように感じています。ただ、情報に限りがあるため、正確な情報が得られない状況で、確たる意見も言えない、というあいまいな態度が表面化しているようにも思います。日本の政府の対応としても、ヨーロッパ諸国ではいろいろと騒がれているのに、仏教の国チベットが問題になっている時に、仏教の国でありアジアの大国である日本こそが、明確な態度を示し、意見するべきところは意見し、サポートするべきところはすべきではないのか、と外から見ていて思います。

 そんな中、デンマークのフレデリック第一王子がオリンピック委員会のメンバーに立候補したい、という話題が注目されています。アンケートなどによると、57%の人がフレデリック王子の委員会入りに賛成しており、反対は28%。また、デンマークから委員を出すとすれば、その候補者として誰が望ましいか、という質問には、45%の人がフレデリック王子がベストだと回答し、29%が他の候補者を擁立すべき、としています。

 質問の詳細がわからないのですが(チベット問題を絡めた質問であるかどうかわからない)フレデリック王子が委員会メンバーになることの影響として、デンマーク王室にとって問題はない、と考えている人が50%、問題になる、と考えている人が39%となっています。これらの結果から、約半数で賛成の意見が多いものの、約3分の一の人々が概ね反対の傾向にあり、慎重な対応をして欲しいと私も思っています。

 フレデリック王子はスポーツへの感心が非常に高い方で、王子がどのような判断を示すかは、王子の自由ですし政治とも関係ありません。ただ、国の顔であり、国の代表としての意思を示すことにもなるので、もし委員会メンバーになるのであれば、チベット問題に対する王子の意見を明確にした上であってほしい、というふうに思います。賛成も反対もできない人々のあいまいな回答には、そうした思いもあるように思います。

 その王室ですが、フレデリック王子のお妃であるオーストラリア人のメアリー妃ですが、いろいろと社会的な活動に余念がありません。いじめ対策としての学校訪問も定期的に継続していらっしゃいますし、障害者への慰問や障害を持つ子供を王室に招待したり、特に子供の環境を良くする運動をされていますが、ホームガードの活動にも参加され、銃の打ち方を訓練されるなど、まさしく現代のプリンセス、という感じで迷彩服の勇ましい姿も雑誌などで紹介されています。ホームガードというのは、有事の場合、武装できる訓練を受けている軍人ではない一般の人々なのですが、その活動をされており、国民からの人気もますます高くなっています。

 一方、ヨアキム第2王子は、3年前に香港出身のアレキサンドラ妃と離婚され、アレキサンドラ妃はその後、14歳年下のカメラマンと再婚されました(再婚後王室の一員ではなくなったので、現在はプリンセスではない)。人気のあったプリンセスだけに、惜しまれながらもこの再婚劇にはエールを送る国民も多かったのですが、ヨアキム王子も5月24日にフランス人のマリー妃と再婚されます。国際的でオープンな王室のお祝い事を、国民も楽しみにしているところです。

 オリンピックですが、チベット問題とは別に、アスリートに影響が及ぶと考えられる大気汚染問題もあったようですが、IOCは記録に影響する可能性があるとしても、2週間の滞在でアスリートへの生涯的な影響がある訳ではない、という考えを示したというニュースがありました。

 環境と言えば、こちらでは運輸大臣が「We should become eco-drivers」というキャンペーンを推進したいと発表。運転の仕方でCO2を削減できるエコドライバーになろう!というわけで、既にスウェーデンとベルギーで実践され、排気ガスからのCO2を5〜10%削減できたという結果が出ているようです。具体的には、アフタースクールや教習所などで、有料の講習会を免許所持者対象に行い、ドライバーの意識を高める、ということのようです。

 日本は暫定税率の一時廃止でガソリンが安くなり、ノンエコドライバーが増えているのでは、と思うと、環境問題に取り組んでいると言う国のしていることが有口無行に見えてきます。国民の税金を無駄に使わないことはもちろんですが、有効に使われるために払う税金が持つ意味も、多方面に考えたいものです。暫定ではなく、環境税の導入も国際的な視点から言えば、付加してもいいのでは、と高税率の国から見ていて思います。環境税の含まれたデンマークのガソリン。今日の価格は、ため息の1
リットル約220円でした。

村上龍RYU'S CUBAN NIGHT