ニューヨークでは2009年の終わりには女性が就業者のマジョリティーになるもようだというタイム誌(10月26日号)の特集記事がちょっとした話題になっている。これはロックフェラー財団が2009年に行ったジェンダー問題に関する調査結果をもとにしている。それによると、就業している女性の内なんと40%の女性が、世帯の主たる稼ぎ手である、すなわち配偶者や同居人より所得が高いという。もっとも、シングルマザーも多いのが米国の実情でそれも含まれているが。
たしかに私の周りを見まわしても女性の就業率は高い。これに関連して思い出すのは、フォーブス・ウーマン誌(2009年8月)で、「働く母親にとってベスト都市」の第1位にニューヨーク市が選ばれたことだ。これは、全米50都市に対して、母親の所得、就業の機会、生活費用の水準、医療状況、小児科医の数、学校の質、公立校生徒一人当たりに市が費やす資金、チャイルドケア、犯罪率、公園の状況といった点について、それぞれランキングをつけて、総合でニューヨーク市が第1位にランキングされたものだ。分析ではニューヨーク市の医療、教育、母親の所得の高さ、就業機会の多さなどが高い評価につながったという。
たしかにニューヨークは女性にとって働きやすい街だと思う。私自身は子供はいないが、いままでの就労経験から、子持ちの女性同僚が、複数の子供を育て、キャリアもどんどん積んでいく姿をたくさん見てきた。実にパワフルだ。
しかし、米国では日本と違って母親は労働の場で法的な保護はされてはいない。会社によって違うが、産前産後の休暇は通常3カ月くらいあるものの、産休期間は通常時の60%程度とか無給のこともある。ある程度福利厚生をよくしないと、質の高い従業員を確保できないので、それぞれの会社は工夫しているが、日本のように1年間の育児休暇があるところなど聞いたことがない。これは手厚い保護はかえって企業が女性を雇わなくなる要因につながるからという考えからきている。
公立の保育所は存在しない。働く母親は子供を私立の保育所にあずけるか、ナニー(乳母)を雇うかが主流だ。ナニーを雇う場合はニューヨーク市では相場は時給15ドル程度が普通。一日8時間週5日でひと月20日雇うと2400ドルになる。保育所はその質が千差万別で、安いところもあるが保育の質はそれに従って劣悪になるので、まともな保育所は子供一人で相場はひと月1600ドルくらいと聞く。
すなわち、母親はそれ以上の年収を得ているということだ。業種にもよるが大卒の初任給は約4万ドルくらいなので、保育料に2万ドルから3万ドルくらい使っても、配偶者がいるならばたしかに生活はまかなえる。米国ではパートタイム労働者はいろいろ法令があって必ずしも安上がりではなく、正社員にしたほうがかえって安上がりだったりするので、中高年の女性も正社員で雇われる率は高い。低所得層では、そんなに高い保育料は払えないので、母親がグループをつくって交代で子供を預けあったり、子供の祖母が面倒をみたりしているそうだ。
日本では公立の保育所は両親共働きでそれなりの年収がある世帯でも、地方公共団体にもよるが、ひと月の保育料の最高額は5万円か6万円程度らしい。低所得の世帯には保育料は格安でもちろんそれよりはるかに安い保育料だ。公立保育園は一定の基準を満たしていて、かなり保育の水準は高く、その上料金は安いので、多くの家庭が公立保育園を求めて殺到し、待機児童がかなり出ているそうだ。
こんなに保育料が安いとは米国から見れば驚きだ。なんと保育福祉が充実した国かと思う。しかし実際には、「日本では子供をあずける公立保育所が足りないから、女性は労働市場に出られない。もっとたくさん公立保育所を作れ。」という論議が毎年されている。
実際、保育所で幼児一人の世話をするコストがいくらかかっているのか、日本で私立の保育所を経営している人に聞いたことがあるが、やはり米国と大して変わらないコストがかかるそうだ。ということは、保育園の場合、月に1600ドル(1ドル百円として16万円)くらい保育料をもらわないと経営が成り立たないということだ。
日本の公立保育所では、月額でそれ以下の保育料しか払っていないのだから、その差額は公的資金(税金)でまかなわれているということになる。たとえば年収150万円の母親が子供をひとり公立保育所に預けることで税金がいくら使われているのだろうか。公立保育所のコストがこんなにもかかっているということを真摯に考えると、公立保育所に莫大な税金をつぎ込むことに国民の過半数が本気で合意かどうか、子供は社会が育てるものという考え方に同意かどうかという根源的な問題にかかわる。
米国では子供は社会が育てるものという発想はない。あくまで個人的な存在。各家庭がその家庭のやり方で子育ての方法を選択するのが基本となっている。米国であんなに保育料が高くても、なぜ米国の女性は就業率が高いのか、そして出生率も2.0以上を保っていられるのか。
これは私の生活感覚では、やはり女性の年収が高いことが一番の理由だろうと思う。そして労働市場の流動性の高さが重要だ。いったん労働市場を離れて数年たってからでも女性の再就職は比較的容易だ。もちろん多くは正社員のポジションなので年収も、福利厚生もそれなりにある。
日本では子育てなどでいったん労働市場を離れた女性は、次に職を得るときには年収の高い職に就くことが難しく、時給千円くらいのパート仕事しかないということが大きな問題だと思う。女性の年収が高ければ、公立保育所がなくてもそれなりに何とかやっていけるはずだと思う。日本でこのままで中高年の女性が低所得のままで放っておかれてよいのか。女性が高い年収を得られる人材になるよう、労働市場の流動化や労働形態の柔軟性を高めることを考えるのもひとつの少子化対策だと思う。 |