当節、海賊がビジネスとしてなかなか繁盛しているらしい。彼らの主な活躍の場はアフリカの東海岸沿い、ソマリアの沖合あたりであります。
海賊たちは本船から双眼鏡で海を見回し、これはという獲物をみつけるとモーターボート(スピードも相当でる、最新式の舟らしい)で乗り付け、これもどこから手に入れたのか最新式の機関銃、手榴弾で威嚇し、船によじのぼって乗員を人質にする。そして身代金を要求する、おおむねこういうパターンであります。
海賊については、1962年に発効した「公海に関する条約」の15条に定義がある。曰く:「(1)公海における船舶もしくは航空機またはこれらの内にある人若しくは財産、および(2)いずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶、航空機、人または財産を、私有の船舶または航空機の乗組員または旅客が私的目的のために行う全ての不法な暴力行為、抑留または略奪行為」であります。
ソマリアの海賊たちはこの条文におけるすべての条件をクリアしている、由緒正しくも正統な海賊たちであります。
彼らがわたくしたちの耳目をあつめたのは、9月のはじめのこと。フランスのお金持ち夫婦がヨットでソマリア沖を抜けようとした時、海賊に捕まってしまった事件があった。夫婦は、オーストラリアからインド洋を北上し、スエズ運河へ抜けようとしたのですが、ソマリアの沖で海賊に掴まってしまい、命と引き換えに100万ユーロ(1億5千万円ですか)をだせといわれ、夫婦が家族に連絡したことがヨーロッパ中のニュースになったのであります。
おりしも経済が思ったほど活性化しておらず人気の盛り上がりに欠けるサルコジ大統領は、まったくこの政治家は機を見るに敏だなあと感心するのですが、「国民の命を守るのがわたしの使命だ」と救援の指令をだすのであります。もちろんメディアも動員して・・・
さっそく特別機動隊が編成されるが、天候不順で海が荒れ、作戦は延期になる、短気な大統領はいらいらする、その繰り返しが2週間続いたあと、ある晴れた闇夜の晩(という言い方はおかしいか。雨は降っていないけれど月も星もみえない真っ暗な夜という意味です)、とうとう救出作戦は決行されたのであります。
特別機動隊の隊員たちは、ヘリコプターから海上にパラシュートで投下され、息の泡がたたない水中マスクと暗闇でもみえるハイテク・ゴーグルをつけてヨットに近づくのです。不意を襲われた海賊たちは一瞬何が起こったのかわからなかったらしいが、とっさに銃に手をのばしたひとりがその場で射殺された以外、犠牲者をだすことなくフランス人夫婦は救出されました。レスキューが無事成功しましたとの報告を受けて、サルコジ大統領は、「我が政府の危機管理の勝利だ」と自賛しておりました。
昨今のソマリア海域は、海賊のプレイグラウンドであります。彼らはすでにここ数年、活発に活動を続けていたが、今年になってその数はめだって増え、今年だけでもすでに大型船が25船も襲われ、小型のヨットとか中規模の漁船を加えると55隻あまりが襲撃の対象になってきたらしい。支払われた身代金はすでに3000万ドルにおよんでいるという。昨年は44隻、おととしは20隻だったといいますから、急激な増加ですね。ロンドンにある国際海事機関(IMO)の数字であります。
もちろん追跡を逃げ切って助かった船もありますが、ともかくインド洋を通過する船舶の保険は、おかげで数年前より10倍にもはねあがっているのだそうです。これではたまらんというわけで、海賊よけの工夫もいろいろと開発が進んでおります。船腹に高電圧のフェンスをつけるという仕掛けはなかなかの着想である。海賊が船をよじのぼりはじめたら電流を流すというのです。
海釣りとかクルーズを楽しむ向きはもっと別の場所へ行って遊べばいいのだし、運送ビジネスは、コストは高くなりますが、インド洋を迂回していくことは可能である。ですが、いちばん困っているのは、アフリカ諸国に食料や医療品などの支援物資を届ける仕事をしている政府機関、国際機関やNGOでありましょう。WFP、UNICEF、WHO、UNHCR、IMOなどは安全保障理事会へ陳情し、海賊を取り締まる制度を構築しようとしています。国連のどこの部局が担当するべきかという議論になって、やっぱりPKOだろうなという意見がでたと聞きます。海賊相手なら憲法には抵触しないでしょう、自衛隊も大手を振って兵力を送れるかもしれませんね。
ところで、先週おこった海賊事件はもうちょっと複雑である。ウクライナの国旗を掲げた大型船が通りかかったので、海賊たちは早速ボートを寄せて、乗船してみたのです。そこで積み荷をみた彼らは、驚愕した。その船は、なんと3000万ドル相当の武器、弾薬、さらには戦車まで積んでいたのです。行き先はケニアということになっているが、それは眉唾らしく、ほんとうの行き先はわからない。誰も言わない。荷物の終点はスーダンで、武器はダルフールでドンパチやっている反政府軍にわたるはずだったとか、いや、エリトリアと争っているエチオピアが顧客なのだとか、いや、コンゴ(旧ザイール)を通過して中央アフリカ共和国まで運ばれるのだとか、すべてありそうな話が次々にでてきて、事件は俄然きな臭くなってきたのであります。武器はみんなロシア製だが、昨今、けっして仲の良さそうではないロシアとウクライナの関係を思うと、ロシア製がウクライナ船に載っているというのもおかしな話ではありませんか。
ともかく、海賊たちが強奪した積み荷は、彼らの気分次第でどこに流れていくかわからないのです。アルカイダなんぞのテロ・グループにわたるかもしれない。あるいはイスラム原理主義者たちが買い取るかもしれない。
NATO諸国はあわてて、まずアメリカ海軍がのりだし、つぎにヨーロッパ諸国も艦船をおくって、インド洋を回遊しはじめております。また、武器を売ったとされるロシアも軍艦をアフリカ東海岸沿岸に繰り出して、それぞれの思惑から海賊たちの様子を窺っております。
彼らが攻撃に使った舟は最新式の高性能ボートではあるけれど、サイズはといえば、ほら、井の頭公園で恋人たちが漕いでいるでしょう、あんなようなちっぽけなボートである。その小舟がおおきな貨物船に横付けされ、それを軍艦が遠回しに取り囲んでいる光景は、そのコントラストがコミカルで、かつシューリアルでありました。
だが、「おおきな船が通りかかったから、停めただけ」なのに、思いがけず世界の軍艦に追いかけられる羽目になってしまって、いっとうびっくりしているのは当の海賊たちでありましょう。
ソマリアの海賊ビジネスは,ソマリアが内戦に突入した1990年代にはじまったといわれます。彼らは、たまたまやってみたらうまくいったので海賊になったという「偶然の海賊たち accidental pirates 」なのであります。ソマリア沿岸はマグロが回遊するルートにあたっていて、最高のマグロ漁場のひとつであります(インド洋の本マグロだ)。だから、世界中から漁船がやってくる。だが、内戦によってソマリア国内の警察力が機能しなくなってしまったため、海域での乱獲がはじまった。外国船の多くは、漁業の免許もたず、勝手にやってきて延縄を張り、魚をさらっていく。
また、豪華なヨットで遊び回るお金持ちたちは、平気でゴミを海へ捨てていくのです。
「あいつらの方がよっぽど海賊じゃないか」というわけで、密猟者を取り締まるために、そしてゴミを不法投棄する環境破壊者たちを「こらしめる」ために、漁民たちは自警団をつくり、不法漁船から「税金」をとりたてることをはじめたのであります。
だが、自警団は次第に欲が深くなっていく。領海内だけでなく、公海にも出っぱり、めぼしい船を手当り次第に攻撃して、金品を略奪し、人質をとり、身代金を請求する。被害船の船主たちはクルーたちの命には替えられないと要求額を払う。これがパターン化していって、文字通りベンチャービジネスとしてビジネスモデルが出来上がってしまったのであります。
彼らはそれぞれにしっかりと組織を作り上げ、いまはほぼ1000人くらいのフルタイムの海賊がいるらしい。さらに、個別の「経営者たち」の寄り合い団体とでもいうのでしょうか、アソシエーションもできあがった。
アソシエーションにはプレス担当がきちんといて、彼の名はスグリ・アリ氏という。
「ジャーナリズムのみなさん、わたしたちについていろいろな話をお聞きになるでしょうけど、わたしの発表だけが正式です。わたしが正式な報道官なのです。わたしのお伝えすることだけが、わたしたちの公式発表なのです」という具合である。そのプレス担当が、船にいる海賊たちを代表してジャーナリストと電話インタビューをした記事がありましたが、これは傑作だった。
「わたしたちは誤解されているのです」とアリ氏は言う。
「わたしたちは海のごろつきなんかではないのです。我が国の海域に入り込んできて不法に魚を捕っていったりゴミを捨てたり、今度みたいに武器を抱えてやってくる奴らの方がよほどごろつきだと思いませんか。わたしたちはそんな不心得な連中を見張るためにパトロールしているのです。わたしたちは沿岸警備隊なのです。」
米軍やロシア軍を敵に回して勝ち目はあるのですかと聞かれて、「ひとは一度は死ぬのです。とりあえず今日は天気もいいし、船の上は穏やかですからね。みんないい気分です」との返事。
「わたしたちは武器や戦車には興味がないのです。それらをテロリストたちに売却するつもりもない。ソマリアがこんなにめちゃくちゃな国になったのも、武器や戦車のせいでしょう。国の混乱はもうたくさんです。」
聞いていると海賊の発言とはとても思えませんね。では、彼らの目的は何であるのか。
「わたしたちはオカネが欲しいだけです。言う通りにオカネを払ってくれれば、すべて返してあげますよ」と答えておりました。
「オカネは、もちろん現金でね」と加えることも忘れない。「手形の決済や信用取り引きはやりません。現金のみ。ただし、金額の交渉には応じます」
いうまでもなく、海賊たちは武器を手に入れてもその流通機構には通じていない。武器取引の世界は複雑で、とくに3000万ドル相当もの商品となると、バッタ屋のようなフリーランス武器商人を通すより、ネットワークを通すことが必要であり、またそのほうが彼ら自身の生命の安全のためでもあるのであります。
いまの彼らは、そういうわけで入手した武器をどこに行ってさばけばいいのかわからないままでおります。また、買い手が見つかっても、じぶんたちで荷をおろすノウハウがない。技術もない。ですから、武器は積んだまま、ウクライナ船員を人質に取り、「近づいてきたら積んである火薬に火をつけて爆破するぞ」と脅しをかけながら、身代金は2000万ドルですと言っている。
「わたしたちはただオカネが欲しいだけなのです。わたしたちは貧しいのです。食べるものにも困っていて、おなかがぺこぺこなのです。だから海賊行為はわたしたちの基本的人権・労働権の行使なのです」
「おなかがへっているだけで2000万ドルというのは多すぎませんか」との質問に、スポークスマンのアリさんは、「わたしたちは大家族なのです。家族を養うためには、やはりオカネがいろいろとかかってしまうのですよ」と、答えておりました。
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