村上龍、金融経済の専門家に聞く
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村上龍からの質問
Q.130
配信日:2000年10月09日
バブル末期の90年と比べると、この10年で平均給与が10%ほど上昇しているとい
う話を聞きました。不況から脱し切れていないこの10年間で、平均給与が上昇した
のはなぜなのでしょうか?
寄稿家: 小林慶一郎 の回答
独立行政法人 経済産業研究所研究員
 十年間の長期不況の中で平均給与が上昇するというと、何となく不思議な感じがし
ますが、国民一人が生涯を通して得られる総所得(=年金の受け取りや預金を含めた
総資産)が、この十年でどうなったかを考えると、この不思議は解消するような気が
します。

 平均給与が上昇した理由については、雇用慣行や社会環境などいろいろな原因があ
るでしょうが、その一方で、この十年で年金制度が将来破綻するリスクは非常に大き
くなり、銀行預金の安全神話も崩れました。将来受け取れる年金の価値や、預貯金の
実質価値は、十年間で減っている訳です。さらに、財政赤字の急膨張によって、近い
将来に大きなインフレが発生するのではないかと、心配する人も増えているように思
います。インフレが起きれば、預金や年金などの金融資産の実質価値は下がります。

 つまり、毎年の給与は上がっても、この十年間で(不況の持続と財政の悪化によっ
て)国民一人一人が生涯に得られる総資産の実質価値(の期待値)は、大きく低下し
ているのだと思います。将来、預貯金が目減りしたり、年金が受け取れないかもしれ
ない、と思えば、合理的な人間は、消費を控えて倹約するようになるはずです。これ
が、98年以降、個人消費がなかなか伸びない原因の一つではないでしょうか。

 不況が続くと生活が苦しくなるはずだ」という直観は、この十年の不況についても
正しかったのだと思います。ただ、通念的には、「不況期には日々の給与(フロー変
数)が減って生活水準が下がる」と考えられたのが、この十年では、「人々の総資産
の実質価値(ストック変数)が目減りすることによって生活水準を下げた」という違
いがあるのでしょう。(別な言い方では、労働分配率は上がったものの、資本分配率
が下がってさらに資本収益の絶対額の伸びが減少したために、国民の金融資産が実質
値で減少し、労働と資本の両方から得られる所得の合計(またはその伸び)は減って
いる、と言うことができると思います)

いずれにせよ帳尻は合っている訳です。

村上龍RYU'S CUBAN NIGHT