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Q.1259
配信日:2012年04月24日
政府はよく「成長戦略」という言葉を使います。日本政府は、日本経済の成長に、どの程度、またどのような方法で、関与できると考えればいいのでしょうか。
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寄稿家:
中空麻奈
の回答
BNPパリバ証券クレジット調査部長
「邪魔しない」
企業の成長戦略の中にも、実効性の高そうなものと、まったく言っているだけに聞
こえてしまうものとがあります。たとえばアジア地域に全面的に事業展開しようとし
た場合一つとってもいろいろです。ある企業Aは今からアジアを重点地域と定めてや
ろうと説明し、別の企業Bはアジア地域で根付いているローカル企業と提携して事業
展開することを発表したとします。どちらがうまくやれるでしょうか。
クレジットアナリストが企業を見るとき、その信用力の判断に成長戦略はそれ程重
要なものではないですが、それでも、事業オペレーションで利益を創出できるかどう
かは、継続性を見る上では大事なポイントになります。もちろん、事業を海外で展開
しようというのは、リスキーと見るのが基本です。当該地域経済に符合したものが根
付く、海外のものでもブランド価値が高いものが根付く、わけですので、前述AとB
の説明だけで結論を読み込むのも無理な話と言えるでしょう。しかし、やっぱりどち
らの実効性が高いのかを考えれば、企業Bです。企業Bはリスクを排除するべく、ロ
ーカル企業と提携しながら、現地のニーズを取り込むことと販路を確保することを実
行したわけですから、アジア地域からの収益を確保できる可能性は高いと言えるで
しょう。
さて、ここまでの比喩でわかったことは、企業の成長戦略でさえ、実効性の度合い
にはばらつきがあるということです。収益をあげるために悪戦苦闘している企業でさ
え、成長戦略がうまく描けないことがあるのです。国に過剰に期待するのは酷かもし
れません。国が言う成長戦略というのも同じで、実効性の度合いにはばらつきがつき
ものである、というのは前提だと思ったほうがこちらの精神的にも楽です。政府や国
が成長戦略と言ったからといって、常に具体的な方策があるはずはありません。
しかし、最近国が成長戦略というときには、あまりにも“スローガン”の連呼に聞
こえてなりません。方針や具体論が描けない希望的観測というと言い過ぎでしょうか。
財政再建か成長戦略か、という二者択一の際(本来二者択一という話ではなく、バラ
ンスの問題です。これをバランス良くやっていこうとしてこそ政府や国の価値が出て
きます。労働法改正という難題にぶつかっている割に、イタリアのモンティ首相が最
近支持率をあげているのは、このバランスを意識しているから、に他なりません)に
は、成長戦略の聞こえが圧倒的にいいのは間違いないところですので、どうしても、
財政再建とセットで成長戦略を口にしてしまうのでしょう。
では成長戦略といってこれまで何が具体的に示されたのでしょうか。2010年6
月菅政権の際に、7つの分野として、1グリーン・イノベーションによる環境・エネ
ルギー大国戦略、2ライフ・イノベーションによる健康大国戦略、3アジア経済戦略、
4観光立国・地域活性化戦略、5科学・技術立国戦略、6雇用・人材戦略、7金融を
あげ、成長することを示していました。環境、介護、科学・技術、金融市場の成長な
ど、右肩上がりの成長がほぼ難しくなった我々が現時点で思いつくのはこの程度、と
いうものがきちんとリストアップされているように思えます。
しかし、二年経って、何か成長したっけ?と頭をひねらざるをえません。雇用・人
材戦略といっても就業率をいくらまであげるといっているだけで、実際の雇用市場を
拡大する戦略にならなければ、あまり意味のないことに見えます。金融市場は、英文
開示を認め外国企業が日本で資金調達しやすくするというのですが、状況はまったく
変化していないのが現状です。
ようは政府が描く成長戦略は、正しいリストアップをしているのですが、実効性を
伴うものになっているのか、あるいは本質的なポイントをついたものになっているの
かという点が欠けているということなのではないでしょうか。やはり、すべてのこと
は民間に任せるべきだと思います。民間は利益をあげるために日々頭をひねっていま
す。何をすれば収益につながるのかを考えることについては、国が頭の体操をしてい
るのとは真剣さも次元も違うと言わざるを得ません。
では国が何をしなければならないか、ですが、大事なことがあります。「民間の邪
魔をしないこと」、です。何も新しいビジネスを生み出すことだけが成長戦略ではあ
りません。民間がやろうとしてできない場合、制度や枠組みがネックになっていない
のかを見て、政府が取り除けることなら取り除くということも一つの大事な成長戦略
だと思います。法人税をいい加減下げるべきというのもその一つですし、各企業の開
示義務の簡素化などもその一つでしょう(もっとも開示義務などは年を追うごとに厳
しくなっていると感じられますが)。独占禁止法などの見直しなどはしたほうがいい
のかもしれません。このところ、日本の電機セクターが苦境に立たされていますが、
それを横目にサムソンは大変元気です。独占禁止法などによって、規模の経済を追求
できない日本勢は、韓国勢に比較してハンディキャップが大きすぎます。円高につい
ての日本政府の動きの遅さを改めることや、電力政策の方向性を示すことなども、日
本政府が出来ることです。
国が何か新しい成長戦略を考え出し、そこに民間を導こうとすると、またぞろ、援
助金という話になります。それ目当ての動きが出て、成長分野に広がりを見せないこ
ともままあることです。必要な予算をつけることもあるのでしょうが、それよりは、
民間の邪魔をしないこと、が重要です。今の日本は、各所に右肩上がりの成長がある
と信じた制度設計が放置されたままになっています。成熟した日本経済にはあわない
ものを変えていく役割は日本政府にあるはずです。
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