村上龍、金融経済の専門家に聞く
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村上龍からの質問
Q.1257
配信日:2012年04月10日
もし総選挙が実施された場合、消費税増税に反対の人、賛成の人は、それぞれ、どの政党に投票すべきなのでしょうか。
寄稿家: 土居丈朗 の回答
慶應義塾大学経済学部教授
「焦点は消費税増税の是非でなく税制を含む地方分権の是非」

消費税増税に反対の人は、社民党や共産党など態度を明確にしている党に投票すると
いうことになるでしょうが、消費税増税に賛成の人がどの政党に投票すればよいかが、
現時点では全く決めきれない状態にあるといえます。

民主党も自民党も、現執行部の勢力は、消費税率を10%に引き上げるに肯定的では
ありますが、報道されているように、民主党も自民党も消費税増税に反対する勢力も
あります。このままでは、民主党も自民党も、消費税増税に賛成の人が投票できる政
党とはいえません。今後、次期衆議院総選挙に向けて、民主党と自民党がどのような
マニフェストを打ち出すかが1つの試金石となるでしょう(ただ、先般付加価値税
(消費税)の税率を引き上げた、イギリスのキャメロン内閣は、選挙時に保守党のマ
ニフェストでは付加価値税増税を一切書かず、政権発足まもなく増税を決定していま
すから、マニフェストをどこまで絶対視すべきかは別次元の問題ですが)。

国政への進出が取り沙汰されている大阪維新の会は、代表の橋下大阪市長が、野田内
閣が取り組む社会保障・税一体改革には反対しているので、その点から消費税増税に
反対との姿勢であるかのように解釈されているようです。しかし、その解釈は正しく
ないと思います。橋下市長ご本人も、「僕は消費税増税を否定しない。ただ今の民主
党の増税には反対だ。」(4月4日)、「僕は消費税増税に完全反対ではない。ただ
今の国税として、社会保障目的税としての増税には反対だ。」(4月6日)、「5%
の消費増税では日本は持たない」(4月6日)とツイッターで述べています。その上
で、橋下市長は「消費税の地方税化。地方交付税の廃止。」(4月4日、7日)とも
述べています。

そう見れば、民主党と自民党の消費税増税是認派と大阪維新の会(というか現時点で
は橋下代表の見解)の違いは、消費税増税の是非ではないといえます。

では、民主党と自民党の消費税増税是認派と大阪維新の会の違いは、消費税の社会保
障目的税化の是非かのように見えますが、それも違うと私は考えます。結論から先に
言うと、民主党と自民党の消費税増税是認派と大阪維新の会の違いは、税制を含めて
本格的な地方分権をどこまでするか、が本質的といえます。

自民党と公明党は、麻生内閣期の2008年12月に「持続可能な社会保障構築とそ
の安定財源確保に向けた『中期プログラム』」を閣議決定しており、ここで消費税を
社会保障財源に充当することを明記しています。民主党は、「社会保障税一体改革」
で、同様に、消費税を社会保障財源に充当することを明記しています。しかし、民主
党も自民党も、「消費税の社会保障目的税化」とまでは言っていません。本当に目的
税であるなら、消費税法にそう明記しなければなりませんが、現在のところそうした
限定はしていません。単に、増税分の税収に限り社会保障給付に用いることを念頭に
消費税増税を提起している、という程度です。大阪維新の会は、既成政党批判を展開
していますから、民主党や自民党(の消費税増税是認派)が提起した内容を批判する
ことを「消費税の社会保障目的税化」批判という形で展開しているのだと思います。
ここは、政治色の濃い差異の強調と思っています。

むしろ、民主党と自民党の消費税増税是認派と大阪維新の会の違いは、税制を含めて
本格的な地方分権をどこまでするか、が本質的です。つまり、中央集権的な色彩の強
い現行制度を前提として消費税増税をするのか、社会保障制度を含めて地方分権を本
格的に行うこととセットで消費税増税をするか、ということです。民主党と自民党の
消費税増税是認派は、現行制度のマイナーな改正で社会保障の充実・強化を考えてい
るため、社会保障制度を中心に現在の中央集権的な仕組みをほぼ維持することを暗黙
のうちに是認することになっています。他方、大阪維新の会は、消費税の地方税化と
地方交付税の廃止、そして道州制導入を唱えています。

確かに、「消費税の社会保障目的税化」を批判し消費税の地方税化を主張している点
を見れば、消費税は社会保障のために使うとは限らない、と主張しているように見え
ます。基幹税の使途を限定しない方がよいという考え方は、財政学でも主要な考え方
ですから、消費税の使途を社会保障に限定すべきでない、といえます(もちろん、民
主党も自民党もそこまで限定してはいないのですが)。

しかし、わが国の社会保障制度は、国は制度設計等基幹的な役目を担っているものの、
医療・介護・生活保護などでは地方自治体が実務的な役目を担っています。そして、
地方自治体が実務を担う医療・介護・生活保護などには、国庫負担として国税を財源
として資金が投入されています。一方、地方自治体を経ずに国(の外郭機関)が国民
に直接支給しているのは、大まかに言えば、年金と雇用保険だけです。

つまり、国が社会保障給付のための支出を行うといえども、大半が国から地方自治体
に配分され、地方自治体が実施する社会保障給付(医療・介護・生活保護など)に充
てられている、というのが現行制度です。そう見れば、民主党と自民党の消費税増税
是認派が、消費税増税分に限り社会保障給付に用いるとの方針であるといえども、そ
の消費税の使途は、社会保障の現行制度に則り、結局は大半が国から地方自治体に配
分されることになります。消費税の増収分を国税でとるといえども、結局は地方自治
体の収入になっているわけですから、最初からこの消費税収を地方税としたとしても
(自治体間の税収格差を除けば)金額面だけを取ればさほど大きな差異はないといえ
ます(ただし、権限委譲が伴うか伴わないかが本質的な差異で、後に詳述します)。

ちなみに、金額面から見ると、現在の社会保障給付にまつわる国と地方の費用負担に
関連して、租税で賄っている部分は、2009年度の社会保障給付費統計によると、
租税で賄われる部分は39兆円で、そのうち国が29兆円、地方が10兆円です。こ
の国庫負担29兆円のうち、地方自治体を経ずに国民に直接支給されている年金や雇
用保険にまつわる国庫負担は約11兆円ですから、自治体が実務を担う医療・介護・
生活保護などにまつわる国庫負担は約18兆円となります。それだけ、地方自治体は、
国から財源を受けて(国の言う通りに)社会保障給付をしているということです。

また、今後のわが国の行財政を見渡せば、公共事業や教育や防衛で劇的に支出が増加
するとは(よほどの意図がない限り)考えにくいですが、高齢者が増加することが確
実なので、社会保障は支出が毎年のように大きく増加します。これは、国と地方合わ
せた支出としてそうなります。

そう見れば、地方の行財政は社会保障が大きな位置を占めており、消費税を地方税と
したところで、地方自治体が社会保障財源を主体的に賄わなければならないという状
態が変わるわけではないということです。したがって、「消費税の地方税化」を進め
ても、消費税の主要な使途として(目的税として1対1対応ではなくとも)社会保障
支出を意識せざるを得ないのが実情なのです(現時点ではどのような使途を意識して
大阪維新の会が「消費税の地方税化」を唱えているかは確定的ではありませんが)。

別の言い方をすると、民主党と自民党の消費税増税是認派と大阪維新の会の本質的な
違いは、「消費税の社会保障目的税化」の是非ではない、ということも明確でしょう。
「消費税を社会保障目的税にしている国はない」のも事実ですが、「消費税を完全に
地方税にしている(消費税収が国庫に一切入らない)国はない」のも事実です。ちな
みに、アメリカにあるのは小売売上税(sales tax)であって付加価値税(消費税)
ではありません。

ただし、もし社会保障の権限と財源を地方分権化する改革をさらに進めることにする
なら、地方交付税の廃止とセットになった「消費税の地方税化」は、必ずしも非現実
的な極論とあしらえるものではない、といえます。

現時点での大阪維新の会(というか橋下代表の見解)で、今後詰める必要がある点と
して、次のような点があります。(1)消費税の地方税化に伴い、社会保障制度にお
ける国庫負担や国の関与をどこまで抑制するか(2)消費税を都道府県(あるいは道
州制を前提とした道州政府)で異なる税率にすることを認めるか(ちなみに、消費税
を地域で異なる税率にすると民間の納税コストや行政での徴税コストが大幅に増大す
るので税率は同一にした方がよいというのが私の見解。カナダの例があるといえども
これは消費税を国税とほぼ同一化しているからできること)(3)消費税の現行分を
地方税とするにしても、今後、消費税を国税として徴収するのを一切禁止するか
(4)これまで地方自治体の支出を支えた分も含め増発してきた国債残高が700兆
円にのぼっており、その償還を担保する財源をどの税で確保するか(国から地方へ大
きく税源移譲した上で、国の債務を地方に委譲すると言う形より、国の債務を返済税
源とともに国に残す方が得策だというのが私の見解)(5)世代間格差として、目下
の団塊世代とそれより若い世代との格差是正は、2015年を目指した早期の消費税
増税か年金課税強化か相続税強化に取り組まなければ実現しないが、その是正をどう
するか(年金を積立方式化することで解消されるとしているが、それは団塊ジュニア
世代以降の格差是正には寄与するが、目下の団塊世代とそれより若い世代との格差是
正はそれでは間に合わない)、といったところです。現時点では、これらはまだ明確
になっていませんので、今後明確になると次期総選挙時の有権者の判断に資すること
になるでしょう。

以上まとめると、民主党と自民党の消費税増税是認派と大阪維新の会の本質的な違い
は、税制を含む地方分権の是非です。中央集権的な色彩の強い現行制度を前提として
消費税増税をするのか、社会保障制度を含めて地方分権を本格的に行うこととセット
で消費税増税をするか、が重要な焦点と見るべきです。大阪維新の会が、野田内閣が
進めようとしている消費税増税や「消費税の社会保障目的税化」を批判しているのは、
既成政党批判の一手段として、政治色の濃い差異の強調と思います。

村上龍RYU'S CUBAN NIGHT