村上龍、金融経済の専門家に聞く
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村上龍からの質問
Q.1241
配信日:2011年12月13日
万が一、ユーロが崩壊した場合、つまりEUおよび世界の金融市場が機能不全に陥った場合、どんな事態が起こるのでしょうか。
寄稿家: 中島精也 の回答
伊藤忠商事チーフエコノミスト
 ユーロ崩壊を叫ぶのは簡単ですが、実際にどういう事態が起こるのかを正確に予想
できる人はほとんどいないでしょう。山一証券の倒産、リーマンブラザーズ倒産の後
遺症があれほど甚大であったことは多分、多くの人、まして政策サイドの人たちに
とって、想定外であったことと思われます。恐らく同じように想定外の事態がユーロ
崩壊が現実のものになった時に起こるのでしょう。よって、下記に述べることはあく
まで個人的な想定内の狭い見方に過ぎないとは思いますが、考えつくまま、私見を述
べさせていただきます。

 第一に、どちらが鶏か卵か分かりませんが、ユーロが崩壊すれば欧州国債市場が暴
落するのは必至でしょう。欧州の銀行は多くの欧州国債を保有していますので、資本
が毀損します。銀行は資産圧縮の動きを加速させるので、クレジットクランチが避け
られません。また、債務超過の銀行が増えますので、国も放置するわけには行かず、
銀行の国有化が進行するでしょう。

 第二に、銀行が危ないので、資金余剰の銀行は金融市場に資金を出さないので、市
場はフリーズするでしょう。よって、日々の資金不足に陥る銀行は市場からお金を調
達できません。この場合は、07年のパリバショック、08年のリーマンショック直
後のように中銀が流動性を供給するしかありません。それでも貸し渋り、貸しはがし
は止まらないでしょう。

 第三は、上記の理由でマネーが経済に回らなくなると、マネーは血液、経済は身体
ですので、血液が流れないと人が死ぬように、マネーが流れないと経済は死んでしま
います。すなわち、経済は急速に悪化して、景気後退から恐慌に向けて進んでいきま
す。企業倒産リスクが増大しますので、株式市場が暴落することになります。

 第四は、世界はグローバル化で密接につながっていますし、特に金融資本市場はそ
うですから、欧州の危機が世界に伝播するのは避けられないでしょう。リスクマネー
の大規模な巻き戻しが起きるので、新興国の経済は壊滅的な影響を受けることになる
でしょう。

 第五は為替市場ですが、ユーロ崩壊で欧州各国通貨がすぐに復活するのか、どうい
う通貨制度に欧州がなるのか分かりませんが、国により程度は異なるものの、欧州通
貨が暴落するのは確かでしょう。また、リスクマネーの巻き戻しで新興国通貨もぼろ
ぼろになるでしょう。ドルは基軸通貨の強み、国際取引における決済通貨の地位は変
わっていませんので、ドルへの需要は根強く、ドルは上昇するでしょう。日本円は債
権国通貨の強みから、マネー還流もあり、上昇するでしょう。

 第六は社会面ですが、債務危機に見舞われているユーロ加盟国でも国民や企業が保
有している資産はユーロ建てですから、これをユーロ崩壊前に英ポンドや米ドルなど
非ユーロ通貨に転換する動きが加速するでしょう。銀行への取り付け騒ぎも予想され、
当局はどこかのタイミングで預金封鎖を発動せざるを得ないかと思われます。また、
全てのユーロ建て取引の契約の効力がユーロ崩壊後にどうなるのか、法的な混乱は想
像するに難く、全く見通せません。

 このようにざっと想像しただけでも、ユーロ崩壊のコストは甚大です。ことはユー
ロ圏に止まらず、世界経済が受ける被害も想像を絶するものがありますので、何がな
んでもユーロ崩壊を阻止することが必要です。それも、EUはユーロ危機で当事者能
力をなくしているようにも見受けられますので、ユーロ危機の解決をEUのみに任せ
るのではなく、G20ベースでより積極的に対策を講じていくことが必要でしょう。
市場は悠長に待ってはくれません。時間が限られています。最早、ECBが無制限の
国債購入に踏み切るなど大胆な策に出ないと現下のユーロ危機は解決できないのかも
しれません。

村上龍RYU'S CUBAN NIGHT