村上龍、金融経済の専門家に聞く
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村上龍からの質問
Q.1036
配信日:2009年11月09日
政府は、緊急雇用対策で今年度末までに10万人程度の雇用創出・下支え効果を見込んで
いるようです。そんなことが可能なのでしょうか。
寄稿家: 真壁昭夫 の回答
信州大学経済学部教授
 わが国の雇用状況は、思ったように回復していないというのが実感でしょう。今年
9月の失業率は5.3%と前月対比で0.2%改善してはいますが、水準自体かなり
高いレベルにあるといえます。また、有効求人倍率も0.43倍と、こちらも8月か
ら0.01倍好転しているのですが、雇用状況は依然厳しいことが分かります。学生
の就職活動を見ても、来年4月の新卒者の内定率もかなり低迷しているようです。

 それに対して民主党政権は緊急雇用対策本部を設置して、短期的に雇用を増やす方
策を取りまとめました。主な内容は、生活費が支給される職業訓練の枠を年末までに
5万人確保したり、ハローワークの機能を広げて、雇用支援サービスの強化などに取
り組むとしています。それに加えて、介護や農林分野における人材育成の支援策を具
体化し、2009年度末までに10万人の雇用の下支え・創出効果が期待できるとし
ています。

 この対策案を見て最初に感じたのは、職業訓練や人材育成策が主な内容になってい
るため、短期的に効果を発揮することが難しそうに見えることです。まだ具体的内容
が固まっていないようなので、今年度末までの雇用創出効果がどれほどあるかを推定
することは難しいのですが、政府が言うように、来年3月までに10万人の雇用を創
出することは至難の業だと思います。

 例えば、生活費が支給される職業訓練枠の増加では、訓練が終了して、実際に職を
得ることによって、初めて本来の意味での雇用が創出されたと考えるべきでしょう。
また、介護や農林分野の人材育成でも、人を育てるこを主な目的としていますから、
その効果が顕在化するには時間が掛かるはずです。それらは、緊急雇用対策というよ
りも、むしろ、今後、中・長期的に継続することによって、長い目で見た雇用の創出
を目指す方策だと考えます。

 また、今回の雇用対策については、とりまとめを急いだこともあり、企業側からの
要望が強い「雇用調整助成金」の要件緩和や、短期的に雇用者数を増やすような具体
的な雇用創出策などは含まれていません。そうした状況を見ると、内容がはっきりし
ない対策で、大きな効果が出るようにプレゼンテーションする手法は、自民党政権と
あまり変わらないという印象です。

 もう一つ気になるのは、民主党政権の政策運営の中に、経済を成長に導く、いわゆ
る“成長戦略”の発想が見られないことです。民主党の政策を見ていると、国全体で
獲得したパイを分配する方法を変えようという姿勢は見えるのですが、そのパイを増
やす為の方策が見当たらないと思います。具体的には、わが国の産業を強くするため
の政策が見られないのです。

 家計部門、特に、生活困窮者等に、今まで以上にベネフィットを提供することには
異論はありません。しかし、それを実施する為には、扶養者控除の制度などを廃止し
て、財源を確保することが必要になります。その結果、今まで控除のベネフィットを
受けていた人々から、当該ベネフィットを取り去って、それを生活困窮者などに分配
することになります。それは、単に経済的な便益の分配方法を変えているだけという
ことになります。

 分配方法を変えるだけではなく、国全体の経済的な便益を増加させることも重要だ
と考えます。具体的には、わが国企業の競争力を強くして、企業が獲得するパイを大
きくすることを考えるべきです。企業が得るパイが増えれば、労働分配率に応じたベ
ネフィットが家計部門にも分配されることになるはずです。家計部門の得る所得が増
えれば消費も刺激され、景気拡大のプロセスを本格化することが可能になると思いま
す。

 雇用対策でも同じことが言えます。政府が予算を組んで雇用を創出しても、それを
継続するだけの原資がなければ、いずれ、その雇用は剥げ落ちることになります。そ
れでは、長期的に雇用を拡大することにはつながりません。むしろ、今のような時期
だからこそ、自国の産業を強化して、経済全体が獲得するパイ自体を大きくすること
を考えるべきだと思います。それができれば、無理なく、雇用が増加することができ
るはずです。
村上龍RYU'S CUBAN NIGHT