村上龍、金融経済の専門家に聞く
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村上龍からの質問
Q.1024
配信日:2009年08月17日
自民党も民主党も、小泉構造改革を充分に総括していないように思えます。もし、小
泉構造改革がなかったら、今ごろ日本はどうなっていたのでしょうか。
寄稿家: 津田 栄 の回答
経済評論家
 今の自民党および民主党は、前回にも書きましたが、小泉構造改革の否定から出発
していますが、明確に改革の結果と原因を総括して間違っていたとは言っていません。
自民党は4年前の総選挙で郵政改革をスローガンに構造改革の是非を問うて国民から
多大な支持を得て300議席近くの多数を得たのに、それを明確に否定することは国
民を裏切り、また責任力と言いながら責任のなさをさらけ出す一方、民主党も、非難
はするものの支持を得るために改革を標榜してきたため、改革そのものを否定するよ
うなことは言えないからでしょう。

 しかし、実際には、小泉政権が誕生した時の経済状況を考えると、構造改革は国民
が望み、必要なものであったことは確かです。当時バブル崩壊以降債務、設備投資、
雇用の三過剰に苦しみ、銀行の膨大な不良債権で金融不安が広がり、経済がデフレ化
して低迷するなかで、従来の大規模な景気刺激策を行っても効果がなく閉塞感に包ま
れていた状況にあり、問題の根源が経済の構造にあると広く認識されていたからです。
だからこそ、構造改革を推進しようとする小泉政権を国民が望んだといえましょうし、
05年でも自民党の大勝利に導いたといえます。

 そういうなかで、もし小泉政権が成立せず、改革も行われなかったら、あの当時の
デフレ化した経済状況から抜け出せず、むしろ悪化していたといえます。01年当時
真っ先に取らなければならなかった政策は、銀行の抱える不良債権問題でした。銀行
は、できるだけ問題を先送りし、それが市中への資金循環を滞らせ、経済を疲弊させ
ているにも拘らず、自ら解決しようとはせず、しかも行政の緩い監督にあって、なれ
合い的な面もあるなど、構造的な問題を抱えていたといえます。そうした問題を正面
から改革しようとしたのが小泉政権の竹中大臣だったといえます。

 その竹中大臣の金融再生プログラムのもとで、期限を決めて、不良債権問題を処理
した結果、銀行の財務体質が強化され、おカネが回るようになって、デフレから脱却
できたといえます(もちろん、そのために問題がなかったわけではなく、やむを得な
いことですが、国民の中には貸し渋りや貸し剥がしなどで犠牲を強いられた負の側面
もありました)。この不良債権の処理により経済が回復しはじめたからこそ、次の特
殊法人改革、郵政改革などに進めたのであり、それがなければそもそも次の改革は行
えてはいなかったといえます。そして、もし小泉構造改革で最初の不良債権問題処理
がなければ、物価下落と景気悪化のデフレスパイラルに陥り、経済は深刻な状況に
なっていたかもしれません。それも時間の経過とともに、経済の自律的な回復力を失
い、そのあとは恐慌になっていたかもしれません。それは世界的にも悪影響を与えた
ことでしょう。

 しかし、不良債権問題がもし世界的な景気拡大の中で悪化しなくても、この構造問
題を解決する改革が行われなければ、ゆがめられた市場のもとで、非効率な状況が解
決されず、経済の閉塞は一段と強まり、日本から資金が流失して、やはりデフレスパ
イラル、あるいは恐慌に直面していたかもしれません。そう考えると、少子高齢化、
人口減少が現実化している今の日本は、先行きに対する不安が一段と強まり、悲惨な
状況になっていることでしょう。

 結局、当時の構造問題は、政官業の強い結束により、既得権益を維持しようとする
構造が、行政の強い権限のもとでの規制などにより競争をゆがめ、市場を通じての資
源の適正配分を妨げ、非効率な状況を放置し、その結果経済のグローバル化のもとで
世界の流れに対応できず機能不全となっていたことです。その背景には、持たれ合い、
問題先送り、無責任など根本的要因があったといえます。そこで、規制緩和と市場原
理の導入により、大きく権限を抱えた政府を小さくして効率化し、持たれ合いを排除
して、問題の解決に時間という基準を導入し、責任の明確化を図ることで、経済の活
性化につなげようとしたのが、小泉構造改革であったといえます。

 とはいっても、小泉構造改革は、方向性として評価できても、その政策の手順や内
容においては不備があったといえます。以前からも言っていますが、まず行うべきは
行政改革、特に公務員改革など行政の効率化を図ることでしたが、官僚の抵抗が強い
ことや彼らの協力を得たいために彼らの聖域に踏み込むことを避け、彼らの権限を許
してしまったことが、それからの三位一体改革、社会保障改革に見られるように、地
方や弱者の疲弊を招きました。つまり、方向性を示しながら、細かなことは権限を
持った官僚などに任せる、いわゆる丸投げをしてしまったことが、自らの既得権益を
維持しながら、国民への負担と犠牲を増やして、期待された改革の中身を変容させて
しまったといえましょう。

 また、規制緩和により非正規雇用が増加することは分かっていたように、改革する
からには、その結果を十分想定してそれに対するセーフティネットを整備すべきであ
り、それを検討もせず、放置したことが現在の改革に対する否定的な見方になってし
まっています。もちろん、経済格差は、バブル崩壊以降からであり、小泉構造改革以
前から起きていましたから、それをもって小泉改革を批判するのは的が外れています
が、それでも経済格差が拡大していくなかでその是正策を図ることは行うべきだった
でしょう。

 そういった不備があったとしても、改革により、経済は、不完全ではありますが、
競争的なり、資源の効率的な配分がなされて、活性化されました。もし改革がなされ
なければ、こうした経済状況もなく、悲惨なものになっていたでしょう。そういった
点で改革そのものは否定すべきではないでしょう。今、自民党や民主党が主張するよ
うに、もし不備を訂正して改革を進めることをしなければ、そして元に戻そうとする
ならば、時間を無駄にするだけでなく、国民の体力を奪ってしまい、将来への期待を
塞いでしまうことになりましょう。やはり、何が悪くて、どこに原因があるのか、小
泉構造改革を総括してほしいものです。

 最後に、私たちは、現状を見て、過去の小泉構造改革を総括することなく、全否定
するようなことをするのは、無責任でしょう。私たちが選択した政権が行った点で、
自らの問題でもあるからです。またマスメディアも、あれだけ小泉改革を肯定してい
たのに、ここにきて検証もせず否定するようなニュースを流して、世論を誘導するよ
うなことも無責任といえます。私たちもマスメディアも、もっと自分のこととして構
造改革を考えるべきであり、それが自己責任という改革の理念に合致するのではない
でしょうか。
村上龍RYU'S CUBAN NIGHT