村上龍、金融経済の専門家に聞く
JMMでは村上龍から投げかけられる質問に金融経済のスペシャリスト達が回答をし、
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村上龍からの質問
Q.1002
配信日:2009年03月16日
定額給付金の給付が始まりました。費用は約2兆円だそうです。もし政府予算の中か
ら2兆円が自由に使えるとすれば、寄稿家のみなさんは、どういう使い方を考えます
か。ちなみにわたしは、周産期医療の再建に約2500億、残りは日本の森林と水資
源の再建・整備に充てたいと思います。年収400万のフォレスター(森林保全員)
を4000人育て、約50年間継続して森林と水資源を保全します。
寄稿家: 山崎 元 の回答
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
 ご質問の趣旨は定額給付金の是非ではないと思いますが、はじめに定額給付金に関
する評価について述べたいと思います。私は、定額給付金を、それほど悪い政策だと
は思っていません。

 定額給付金は、基本的には減税を、税率から見ると低所得者に対して手厚く行う政
策です。給付金は差し引きの効果としてその多くが貯蓄に回るので、同額の公共事業
などの財政支出に比して景気浮揚効果が小さいという批判がありますが、定額給付金
の使い途は、貯蓄も含めて国民一人一人が決めるので、資源配分の無駄が起こりにく
い点をもっと評価していいのではないかと思います。副作用が小さい政策の方がいい
し、効果が足りないというなら、金額を増やせばいいのではないでしょうか。

 定額給付金に関連して大いに警戒すべきは「給付金のような単なるバラマキより
も、もっと有効なお金の使い途があるはずだ」と言い募るような議論です。私は、た
とえば2兆円の的確な使い途を政府が発案し実行することは、そう簡単ではないと
思っています。言い換えると、政府を信用していません。G20で決まりそうな「G
DPの2%以上の財政支出」についても、それ自体として不要不急、使い方が非効率
で、官僚の利権となり、特定の業界の食い物にされるような支出がたくさん混じるの
ではないかと心配です。

 新聞の社説などが提唱する2兆円の使い途は、私の見た範囲では、たとえば、癌の
新薬開発、航空機産業の育成、介護ロボットの開発、空港整備、学園都市の構築など
ですが、金融・景気対策として支出までに時間が掛かることに加えて、支出の分野が
偏っており、どのような形式で誰に対して支出するかについて大いに検討の余地が
残っています。何れも、目的には意味があるとしても、手段の効率とフェアネスには
問題がありそうなものばかりです。

 紆余曲折を経て決定された2兆円の定額給付金に関する問題点は、(1)金額が小
さいこと、(2)支給までに時間が掛かったこと、(3)支給対象をはじめから経済
的弱者に絞り込むべきだったこと、(4)支給に手間と費用が掛かること、の4点あ
りますが、総合的には、2兆円を特定の分野・業界に向けて慌ただしく使うような財
政支出よりはましな政策ではないでしょうか。

 ご質問を、2兆円の定額給付金という政策の代わりに何をするか、という意味に取
るなら、理想的にはもっと金額を増額して(10兆円くらいに)実施するということ
ですが、2兆円しか使わないということなら、低所得者に対象を限定して配分するこ
とが改善案です。敢えて、強情に答えるとすれば、これが私の回答です。

 さて、今回のご質問の趣旨は、「(難しいかも知れないけれども)2兆円をどう使
うのがいいか考えてみようよ」ということでしょう。政府が行う支出は、平均的には
使途や効率性に難点があるとしても、「全てが」民間による資源配分よりも効率が悪
いというものでもないはずです。

 敢えて裁量的に使途を考えるとすると、自由な市場取引に任せていたのでは失敗し
やすい分野に支出したいと思います。

 市場の失敗を考慮すべき分野としては、「医療」と「教育」をあげておきたいと思
います。医療サービスは売り手と買い手の間に大きな情報の非対称性がある商品です
し(買い手側は情報が乏しいし、じっくり考える余裕もない)、教育には、投資の効
果測定が難しいことに加えて、教育(費)の格差を通じた経済力格差の固定化の問題
があります。もう一点あげると、良い教育には、周囲の人のメリットにもなる外部経
済効果があります。それではどちらを重視するかは難しい問題ですが(しかし、実際
の政策策定では考えなければならない問題ですから、財務省は大変ですね)、編集長
が医療費を使ってくれているので、今回は教育を重視したいと思います。

 2兆円は、数年間かけて、公立の中高校の外国語(英語と中国語)と数学教育のレ
ベルアップだけに使ってみたいと思います。「ゆとり教育」で大学まで来てしまう
と、学習の投資効果は大きく落ちそうです。中学生・高校生くらいの段階なら、まだ
間に合うのではないでしょうか。

村上龍RYU'S CUBAN NIGHT