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Q.311
配信日:2002年05月27日
今後インフレと円安が進行すると仮定すると、高齢の年金生活者はどうやって生活を
防衛すればいいのでしょうか?
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寄稿家:
山崎 元
の回答
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
ここしばらくの間にするすると円高が進み、123円台に突入したところでは日本
政府・日銀によるドル買い・円売りの介入があったと報じられています。年金生活者
が、円安と決め込んで円安で儲けることができる資産運用(たとえば大量のドル預金)
などを行っていた場合には、命のロウソクが急に縮むような恐怖を味わったことで
しょう。
ご質問の前提である「今後インフレと円安が進行すると」と100%仮定して財産管
理を考えることは現実には適切ではありません。100%がダメならいくらまでなら
いいのだ、ということは一概にはいえませんが、現実的には50%から大きく離れな
いくらいのウェイトでこの方向に賭けるのでなければなりません。
もちろん、そこでは、インフレと円安の可能性も無視してはいけないとうことです。
さて、ひとくちに年金生活者といっても、経済的な条件は多様です。単純化した具
体例を考えてみます。たとえばヤマザキという65歳の話好きのおじいさんが現在年
金生活をしていると想像します。子供の面倒を見る必要は無く、ほぼ同年の妻と二人
暮らし、住居は賃貸暮らし、借金は無し、不動産も無し、金融資産が3000万円、
年金の受給額が月額25万円と考えてみましょう。
年金額の25万円で悠々暮らせる、ということであれば年金のインフレスライドも
あることであり、そう心配ということはないでしょう。証券会社、保険会社、不動産
会社、貴金属等の商品取引業者、等々のお金の運用先を紹介してくれる親切そうな
セールスマンのいいなりにならなければ、何とか無事な人生の終盤を過ごすことがで
きるでしょう。ヤマザキ老人の場合は、セールスマンには免疫がありそうですが、賭
け事と酒におぼれなければいいのだがと自分自身で少し不安に思っています。
さて彼の場合は、賃貸暮らしということもあり、当面の生活費が月に35万円
掛かっているとしましょうか。月10万円×12ヶ月で、年金の他に年間120万円
が必要です。現在のほぼゼロ金利を前提として単純に3000万円を120万円で割
るとあと25年、90歳で蓄えが尽きることになります。今の時点では「90まで生
きたら御の字だ」などと言っているかも知れませんが、90歳が近づくと「まだまだ」
と思うに違いありませんし、途中で大きな病気をすることがあるかも知れません。
また、インフレはマイルドなものであっても彼にとって恐怖です。世間が問題にし
てくれないばかりか、待望しているかも知れない2%といった水準のインフレでも
20年後、つまり85歳時点での生計費は約1.5倍となり、月に52万円を超える
計算です。これが年率5%ものインフレとなると20年後の物価は約2.65倍です。
月に92万円以上も必要なのかと思うと気の小さい彼は不安で膝ががくがくします。
もちろん、インフレ率が上昇する間には金利も上昇するので、ヤマザキ老人が愛好す
る郵便貯金その他の貯金には利息が付きますが、インフレに完全についていくことは
望み薄でしょう。
このヤマザキ老人の状態はまだまだ「逃げ切り」と楽観はできません。どうするヤ
マザキ?
彼は次のように考えました。まず、105歳まで生きるとは思わないが、期間40
年で資産を使い尽くすと設定する。たとえば90歳で寿命が尽きるとすれば、残りの
15年分の資産を子供に残せば少しは感謝されるだろうし、死に際の面倒も幾らか親
切に見てくれるだろう。
もちろん、途中で大病でもした場合にこうしたお金を先食いするかも知れないが、そ
の時はその時のこと。3000万円割る40年で、今年は75万円取り崩して月に
6万2千5百円使う。これで年金と合わせて月に31万2千5百円。我慢できないこ
ともないが、これでは窮屈。まだ元気なのでアルバイトをしよう。
老年フリーターとして、たとえば妻と合わせて月に8万円稼ぐ。この状態で当面は月
に35万円の暮らしを続ける。
ギリギリの生活に対して月8万円、年間96万円のいわば「余裕」が働ける間はあ
る。たとえば3000万円の資産のうち幾らかをリスクを取って運用すると考えた時
に、最大の損失が年間96万円で納まればいいだろう。単純に考えても、翌年のアル
バイトと耐乏生活で取り返すことができるのでこの金額を年間許容最大損失額としよ
う。
最悪の場合、一年間にリスク資産の3割が損失になると仮定して逆算すると320万
円まで投資することが出来る(リスク資産への投資の中身は同姓のよしみで山崎元に
訊こう)。リスク資産が平均的に5%のリターンを持っているとすると、16万円の
期待収益とアルバイト収入からの新規貯蓄が年間51万円ある。
翌年までのインフレ率がゼロであれば、たとえば収益が67万円あれば、少なくとも
この金額は新規にリスク資産に投資できるし、あるいはこの金額の中の相当額を次の
年の最大許容損失額に反映させる方法もある・・・。
たとえば上記の方法は、単純でかついささかストイックですが、原理的に運用では
生活が破綻しませんし、その他にもいくらか余裕が見積もられています。個人の生活
の割り切りによる年間損失許容額の見方でリスク資産運用できる金額は大きく異なっ
てくるでしょうが、たとえばこうした考え方で多少なりとも投資収益か勤労所得から
の貯蓄を稼いで、将来起こりうるインフレに対してセーフティー・リードを確保する
べく地道に努力するべきではないでしょうか。
このケースに関するリスクの見方は、他の見方も可能でしょうが、資産が3000
万円よりも少なかったり、当面月に8万円も稼げなかったりという条件の悪化があれ
ば、資産運用で取ることができるリスクはもっと小さくなりますし、その場合生活を
切りつめる以外に選択肢はなくなります。余裕がないとりすくが取れないのは当たり
前ですし、余裕のない人にもリスクを取ることを強要するべきではありません。
このヤマザキ老人の場合は、多少働けることで余裕を作っています。高齢になって
も働けるということは重要です。合わせて、生活のコストを抑える技術にも大きな価
値があります。もちろん、もっと元気に働ける時に、キリギリス的な生活をせずに資
産の形で余裕を蓄えておくことができればもっと安心でした(これはまた別の問題で
すが)。
将来の経済の状況や株式・債券・為替などのマーケットを確実に予想することなど
できない以上、たとえば、不動産、外貨預金、金、株式、・・・、といったいずれか
の対象に資産を放り込んでおけば安心、といった安易な解決方法はありません。自分
の状況をよく見ながら、「不確実性とつき合っていく方法論」を具体的に身につける
ことが大切です。