村上龍、金融経済の専門家に聞く
JMMでは村上龍から投げかけられる質問に金融経済のスペシャリスト達が回答をし、
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村上龍からの質問
Q.025
配信日:1999年08月16日
円高傾向が続いています。政府だったか大蔵省だったか財界だったか忘れましたが、
「(円高は)長期的には望ましいが、短期的には望ましくない」みたいなコメントがあ
りました。例によって非常に漠然とした質問になってしまいますが、「長期的には円高、
短期的には円安」というような都合のいい為替相場の可能性について、お聞かせ願え
ればと思います。為替相場の変動要因はほとんど無限だと思いますが、日本経済の回
復過程をメインファクターにしてシミュレーションしていただければと思います。
寄稿家: 松田 哲 の回答
セントラル短資オンライントレード(日短FXダイレクト)
市場営業部部長、チーフディーラー(当時)
長期的には円高が望ましいという考え方は、通貨を一般的なバロメーターと
考えて、自国通貨が強いことが、国力が強いことを表現していると考えている
からだろう。

 ある意味ではその通りである。円高は輸入価格を引き下げ、インフレを抑制
する。
 円高トレンドは海外からの資本流入を呼び、日本国内から海外への資本流出
を抑える。国内に資本が滞留するということは、国内で投資が行われるという
ことである。資産価値の上昇が望める訳だ。現在のデフレ傾向に歯止めをかけ
ることができる可能性を持っている。

 短期的には円安が望ましいというのは、日本の経済が相変わらず輸出企業に
依存しているためである。
 円安のほうが輸出企業にとって価格競争で有利になることは説明不要であろ
う。
 ただ、今年の春から夏の現在にかけて、政府筋、大蔵省、日銀が何度も「長
期的には円高、短期的には円安が望ましい」とコメントしているが、この場合
は、価格競争に主眼がある訳ではなく、単に輸出企業の受け取る円貨が多くな
ることに着目しているだけであろう。
 日本を代表する大企業はそのほとんどが輸出企業だ。自動車や機械、電気機
器などは製品単価も相対的に高い。輸出企業に利益がでれば、景気が回復する
と考えているのだろう。

 外国為替取引とは、二国間の通貨の交換取引を意味し、外国為替レートはそ
の交換比率を表している。

 外国為替はドルと円だけではないのだが、わかりやすく日米の二国で考えよ
う。
 日米といった、二つの国を比較した際に、将来に向けて米国が日本よりも格
段に発展すると考えられる場合、日本の投資家は円で持っている資産をドル資
産に換える。そうすることによって、自己の保有している資産の価値が将来に
向けて高くなるようにしようとする。
 昨今は、日本の投資家に限らない。将来に向けて米国が日本よりも格段に発
展すると考える国際的な投資家(投機家)は、円を借りてドルに換えて、ドル
資産を購入する。
 これが資本移動だ。
 資本移動は長期的に起こる。市場参加者が多く、金額が大きい為である。思
惑が的中し、その取引で利益が出るようになると相場は加速する。その利益を
担保にレバレッジをかける投機家が必ず存在するからだ。この相場が加速する
状態をオーバー・シュートと呼ぶ。

 1995年半ばから1998年半ばまでの約3年間に、ドル円の為替レートが80円から
147円まで上昇した理由を単純に述べれば上記のようになる。
(もちろん、実需の貿易為替も大きな要因であるが、本格的な資本移動は実需
に基づく貿易為替の金額をはるかに上回る。)
 1998年半ばの147円台から、ドル円は大暴落し、1999年1月には108円台まで
見ることになった。
 1995年半ばからの3年間の修正が起こったのである。

 1995年半ばから1998年半ばまでの約3年間に、円からドルへ資本移動が起
こった。
 現在は1998年半ばから始まった、ドルから円への資本還流の最中と言えよう。
この動きが単に修正に過ぎないのならば、流入していた資本がある程度戻れば
終了する。
 単なる修正に終わらず円の資本移動が始まっていると考えるならば、円高ト
レンドはまだまだ続く。

 資本移動のうねりや相場の怖さを知らない素人にとって、ご都合の良いよう
には為替レートは動かない。
 もっとも、それ程に深く考えて、「長期的には円高、短期的には円安」とい
った都合のいい為替相場をコメントしているようには思えないのだが。

 もっと謙虚になるべきだと常々思う。大蔵省のキャリアだろうと、総理大臣
であろうと、大蔵大臣であろうと、たかだか中央銀行の総裁であろうと、外国
為替市場にとっては、一参加者に過ぎない。
 もちろん、それらの職務・地位にある人のコメントには影響力がある。それ
も含めて自らの職務・地位を謙虚に見つめてほしいものだ。

 「景気回復を阻害するような円高は困る」「プリマチュアな円高は望まない」
と言ったコメントを付けて、この6月、7月に大蔵省・政府筋は、大量に円売り
ドル買い介入を行った。
 介入により、ドル円レートは117円台から122円台後半まで上昇した。
 市場参加者の多くが大蔵・日銀が120円以上の円高を介入で死守するものと
判断した。
 ところが、7月下旬に120円を割り込むと、8月初旬には113円台まで急落した。
 介入が市場に負けたことは明白である。
村上龍RYU'S CUBAN NIGHT